イントロダクション
タイトル | : | 「伝える前」が9割 言いたいことが最短で伝わる!「紙1枚」下書き術 |
発行日 | : | 2023年9月26日 初版発行 |
発行所 | : | KADOKAWA |
著者 | : | 浅田 すぐる |
著者情報は、上記リンクからご確認ください。 |
表紙に書かれている言葉「伝え方の練習をいくらしてもムダだった」。
これには概ね同意です。
練習しても話し上手になれた感じはしません。
だって、生来のコミュ障だから。
「できるだけ話さないですむのならそうしたい」だけど「コミュ障でも上手に伝えられるようになりたい」そんな風に思っていました。
しかし、そんなうまい話はありません・・・と思ったら、ありました?
「コミュ障」に悩んでいた著者が、今ではスピーカーとして講演でも活躍している・・・だと?
はいはい、これはエセコミュ障の疑いがありますね。
いったい、どんな方法を提唱しているのでしょうか。
それは、「伝える前の事前準備」。
・・・わかります。
コミュ障は、人に何かを伝える前にどうやって伝えようか時間をかけて考えるんです。
・・・ということは、あれ?もしかして本物ですか?
ということは、この「伝える前の事前準備」を突き詰めて究極に高めた内容なのかも。
本書は、著者が10年以上、10冊にわたって語り続けていることの集大成。
いわば、それだけ需要ありまくりの内容のベストアルバム本ということです。
これは、すごく期待してしまいますね。
疑ってすみませんでした・・・と思いながら私は本書を手にすることにしました。
オススメしたい人
- 「できれば話したくない」けどそれが許されない立場の人
- 自己紹介やプレゼンが苦手な人
- 仕事に関するやりとりはできるだけ簡潔に、要領よく、最低限ですませたい人
- 「伝える前の事前準備」を効率的にロジカルにやりたい人
学べること
「できれば話さないですませたい」という本音を抱えていても、人は独りでは生きていけません。
本書は、著者が見出した「できるだけ話さないですませたい人」のための「コミュニケーションの極意集」です。
ここでは、本書の内容を私の解釈で簡単にまとめています。
伝える前に、「見せられるもの」を用意する
次の3つのうち、「最も伝えやすい道案内」はどれだと思いますか?
- 1回目:話す側も聞く側も、まったく地図を見ない状態で道案内(30秒)
- 2回目:話す側だけ地図を見てOK、聞く側は地図なしで道案内(20秒)
- 3回目:話す側も聞く側も、お互いに地図を見ながら道案内(10秒)
後ろの秒数は、道案内に使っていい時間です。
1回目の「口頭オンリー」のコミュニケーションは自分が伝えにくく、相手にも大変伝わりづらい伝え方です。
2回目は、話し手は「口頭オンリー」よりはるかに伝えやすくなります。しかし、聞き手は説明を聞いて自分の頭の中で地図を描く必要があり難しいです。
ここに重要なポイントがあります。
「伝えやすくはなる」が、必ずしも「伝わりやすくなる」とは限らないということです。
では、どうすれば「伝えやすくなる」と「伝わりやすくなる」を両立できるのか。
その答えが、3回目の「見せて伝える」です。
「見せて」伝えるは、効率性を追求したビジネスコミュニケーション
「見せて伝える」は、最も短時間で、効率的で、相手の時間を奪わないですむ伝え方です。
そのためにすることは、伝える前に、何か「見せられるものを用意すること」です。
これが「伝わる」コミュニケーションの究極の基本動作です。
これにより「できるだけ話さないですませたい」というニーズを満たすこともできます。
思考整理
伝える前の事前準備を経て資料を作成することには、伝えるときに「見せられる」以外にも重要な本質があります。
それは、自身で「トコトン考え抜くため」です。
伝える前に、自問自答を繰り返し、最小限の説明ですませられるよう「見せる」資料にまとめることができます。
そして、そうやってまとめたからこそコミュニケーションが苦手な人でも理路整然と端的に伝えることができるようになります。
このように資料作成とは「伝えるための手段」ですが、目的は「思考整理」にあります。
本書では、「思考整理とは、2つのプロセスでできている」と定義します。
- 考えるベースとなる「情報を整理する」
- 自分なりに「考えをまとめる」
※考えるベースとなる「情報を整理する」
情報を整理するには、紙やペン等を使って色分けして視覚的に行うことを推奨します。
この2つのプロセスにより思考整理とあわせて後述する「What」「Why」「How」を活用すると、さらにロジカルな伝え方ができるようになります。
伝える前にやるべきこと
伝える前に、最初に決めるべきことには、3つのアプローチがあります。
3つのアプローチとは、相手の「思考・理解」「感情・共感」「意志・信頼感」のどのレベルで伝えるかです。
この3つを別の言葉で言い換えれば、「ロゴス」「パトス」「エトス」です。
さらに、この3つの本質を整理するために、それぞれ身体の何処に対応しているかを示すと次のようになります。
- ロゴス=思考・理解=アタマ
- パトス=感情・共感=ココロ
- エトス=意志・信頼感=ハラ・カラダ
pukoが「ロゴス」「パトス」「エトス」の言葉に馴染みがなかったため、以降「アタマ」「ココロ」「ハラ・カラダ」の言葉で説明させていただきます。
(本書を読んでいて、ロゴス?ロゴスってなんだっけ?パトス?パトスってなんだっけ?・・・となってしまったので)
毎回、この「アタマ」「ココロ」「ハラ・カラダ」のすべてに訴えかける必要はありません。
時間は限られるはずです。
そのときの目的に合わせて「相手にどのレベルでわかったとなってもらうのか」について設定し使い分けます。
そのレベルに合わせて相手のこの3つの領域の何処に働きかけるかを伝える前に検討しましょう。
わかってもらえればOK
頭でわかってもらいたい場合は、「アタマ」領域に働きかけます。
本書の技術を使うことによって、すぐに実践できて、短期的に効果を実感しやすいです。
前述の「思考整理」し資料で「見せて」伝える方法は、この「アタマ」領域に働きかけるアプローチです。
格段にわかりやすく伝えることはできますが、心に響かせる伝え方としては弱いです。
心にも届けたい
心に響かせたい場合は、「ココロ」領域に働きかけます。
相手に何かを感じ取って欲しい、何かしらの行動変容を促したい場面では、ただ「わかってもらっただけ」では必ずしも目的を達成することができないケースも出てきます。
相手の心に響くかどうかは、情熱的に伝えたり、体験談を物語ったり、様々な方法で働きかけていく必要があるため時間がかかります。
信用してもらいたい、伝えた後に動いてほしい
意志レベルにまで「ハラ落ち」させたい場合は、「ハラ・カラダ」領域に働きかけます。
相手の心に響かせ、信頼を得て今後のアクションに繋げていってもらいたい場面では、このような伝え方が必要なときが多々あります。
信頼感の獲得は、日々の人間関係や長年積み上げてきた実績等を通じて、コツコツ時間をかけることでしか醸成できません。
わかるとは何か?
「わかる」とは、後で振り返ってみると「わかったつもり」に過ぎないものです。
「わかる」とはキリがありません。
そのため、どれだけ時間をかけたとしても「100%わかった」は絶対にあり得ません。
そのことを前提に、私たちは伝える前から「相手にどのレベルでわかったとなってもらうのか」についてマネジメントしていくことが必要です。
「わかる」のマネジメント
人は、次の3つのときに「わかった」となります。
積極的に仕掛けていきましょう。
- 人は、「既知との照合」ができると「わかった」となる
- 人は、「比べて見る」ことができると「わかった」となる
- 人は、「3つの疑問を解消」できると「わかった」となる
伝える前に、この3つを意図的に準備できれば相手から「わかりやすい」と言ってもらえるのが当たり前になります。
人は、「既知との照合」ができると「わかった」となる
たとえば、目の前にカレイがあるとします。
これをカレイとわかるためにはカレイを知っている必要があります。
この場合、「脳内のカレイ(既知)」と「目の前のカレイ」を照合して「これはカレイだ!」と「わかった」となります。
本書では、「カレー」を例にしていたため、ここでは「カレイ」を例にしてみました。
相手に伝えるときは、相手の「既知」にアクセスしながら伝えたいメッセージを伝えます。
この「既知との照合」をうまく使いこなすためには次の力が必要です。
- 言い換え力
- 引き出し力
- 把握力(相手のことを把握する力)
たとえば、「自分はカレイを説明したい」とします。
そして、「相手はカレイを知らないけど、ヒラメは知っている」とします。
この場合、次の伝え方ができます。
「ヒラメは、お腹を手前にして置いたとき、頭が左を向きますよね」
「カレイは、見た感じヒラメに似ていますが、お腹を手間にして置くと右に頭が向くんです」
「つまり、カレイは右に頭が向いたヒラメです」
余談ですが、この法則が通用しない種類もいるそうです。
上記の例の伝え方をする場合、次の力が必要です。
- 自分は、カレイとヒラメの両方を知っている「引き出し力」
- 「相手がヒラメのことは知っている」ということを知っている「把握力」
- カレイをヒラメに例えたり違いを示す等で伝える「言い換え力」
人は、「比べて見る」ことができると「わかった」となる
学校のテストのような「明確な答え」がないテーマについて、それでも相手に伝えなければならないということがあります。
そこで使えるのが「比べて見る・見せる」アプローチです。
賛否両論が成立する題材の場合、賛成・反対の視点に立って理由を考え、それらを見比べて思考整理していきます。
自分なりの考えがまとまったら、それをそのまま相手に見せる「一目瞭然」スタイルで伝えましょう。
そうすれば、「できるだけ話さないですませたい」という気持ちを抑圧することなく最小限の説明で伝えることができます。
「賛成だ」「反対だ」と「一点突破」スタイルで伝えるのは、できるだけ避けましょう。
賛成、反対のどちらの立場で説明しても、ツッコミはいくらでもできるし、追加説明もいくらでもできるのでキリがなく泥沼にはまるリスクが高いです。
人は、「3つの疑問を解消」できると「わかった」となる
人は、「What」「Why」「How」3つの疑問を解消できると「わかった」となります。
「What」「Why」「How」には、それぞれ次のような例があります。
- What?:現状、概要、課題、問題点、討議内容、詳細情報、等
- Why? :理由、要因解析、背景、経緯、当初の目的、等
- How? :実行計画、今後の対応、スケジュール、展望、見通し、等
How
上記の例のとおり、「How」は未来の不明点を解消する疑問詞です。
「How」のカバー領域は、「未来」です。
例:これからどうやって○○するか?(どうやって広めるか?、どうやって解決するか?)
Why
上記の例のとおり、「Why」は過去の不明点を表す疑問詞です。
「Why」のカバー領域は、「過去」です。
例:どんな理由があって、なぜ○○したいか?(なぜ広めたいか?、なぜ解決したいか?)
What
必然的に残る「What」のカバー領域は、「現在」です。
例:伝えたいテーマは?、具体的に何か?
なぜ「What」「Why」「How」3つの疑問を解消できると「わかった」となるのか。
その答えは、「過去」「現在」「未来」の3つの時間軸の不明点をすべてカバーしているからです。
この3つを網羅的に解消しながら伝えることで、相手はあなたの説明に満足し、「納得感」を感じます。
「What」「Why」そして「How」をカバーできていさえすれば、どのような順番、質問文でも構いません。
「心に響く」とは何か
「感情・共感=ココロ」というのは前述のとおりです。
「共感」とは「共に感じること」です。
相手の心に響く伝え方をするためには、まず自分自身の感情が動いていることが重要です。
それでは、「感情」とは何でしょうか。
感情とは、「欲望」です。
「喜・怒・哀・楽」なら「喜びたい、怒りたい、悲しみたい、楽しみたい」となります。
つまり、欲望とは「満たされないを満たしたい」です。
要するに「ビフォーアフター」となります。
そのため、「感情とは、ビフォーアフターである」と捉えることができます。
相手の心に響かせたいなら、伝える前に「ビフォーアフター」を考える必要があります。
正確には、「Before」と「After」、それをどうやって成し遂げたのかという「How」の3点セットです。
この3点セットを使って「満たされない」が「満たされる」までの「ビフォーアフター」の物語を作りましょう。
人は欲望が満たされる話に触れることで、感情が動きます。
「心に響く伝え方=物語る力」を身につけましょう。
「ココロ」領域に働きかける1:「Why=背景を語る」
たとえば、会話機能のついたお掃除ロボットがあったとします。
このお掃除ロボットのすごいところを問われたのなら「会話機能です」と答えます。
これは「What=機能説明」しただけです。
このお掃除ロボットの使い方を問われたなら「この赤いボタンを押してください」と答えます。
これは「How=取扱説明」しただけです。
これらは、相手に「わかりました」と言ってもらえるかもしれませんが、相手の感情には何も生まれません。
相手の感情に響かせるためには、「Why=背景説明」を語りましょう。
説明の対象に関するハートフルな背景を語ることによって心に響くアプローチが可能です。
そのため、自分自身が本当に大切だと思っていることを真摯に話さなければ効果は期待できません。
思いを込めて「Why」を語れる人になりましょう。
「ココロ」領域に働きかける2:「Why! Why! Why!」
3つの疑問をすべて「Why」にします。
「Why! Why! Why!」と3つたたみかけることで、内容以上に凄みや勢い、思いの強さ・本気度といったものを伝えて心に響かせることができます。
「Why」を様々な切り口で使います。
この「Why」を様々な切り口で使うコツは、「When」「Where」「Who」を使います。
「時間軸=When」を活用した例
- 現在:なぜ、「今こそ」必要なのか?
- 過去:なぜ、「かつては」重視or軽視されていたのか?
- 未来:なぜ、「これから」大切にしていかなければならないのか?
「空間軸=Where」を活用した例
- 業界:なぜ、「社会人教育」の世界において必要なのか?
- 社会:なぜ、「御社だからこそ」必要なのか?
- 地域:なぜ、「日本でこそ」必要なのか?
「人軸=Who」を活用した例
- 自分:なぜ、「私は」これを広めたい、伝えたいのか?
- 相手:なぜ、「あなたが」これを活用したほうが良いのか?
- 世代:なぜ、「Z世代」こそ、これを学ぶべきなのか?
このように「時間軸=When」「空間軸=Where」「人軸=Who」を活用するとカンタンに「Why」のバリエーションを増やすことが可能です。
読んだ感想
本記事では主に「アタマ」領域に働きかける「わかってもらえればOK」のアプローチに少し「ココロ」領域に働きかける「心にも届けたい」アプローチを加えた内容でまとめてみました。
本書でいうところの「理解=ロゴス」編、「共感=パトス」編となります。
相手に何かを伝える際に「相手にどのレベルでわかって欲しいのか」ということを最初に設定するという内容は私はあまり気にしてきませんでした。
気にしていないということは、いつも「わかってもらえればOK」という資料を作って説明していたんだと思います。
ここぞというときに「心にも届けたい」アプローチができていなかったかも。
誰かに何かを伝える際は、この最初の設定を忘れないように心がけようと思います。
また、これからの資料作成においては「2W1H」を意識して作成していきたいと考えています。
2W1Hとは、「What」「Why」「How」です。
本書からは、相手に伝える前の事前準備を効率的にロジカルに行う方法を学ぶことができました。
それを視覚的に実行できる方法が、「紙1枚」下書き術です。
この内容については、本記事ではほとんど触れていません。
詳細な進め方は、本書で例を示しながらわかりやすく説明されていますので実践したい人は本書を購入して読んでください。
この内容で作った資料を使って伝えれば、「できるだけ話さないですませたい」と「伝えたい」を確かに両立できると思います。
まさに「できるだけ話さないですませたい人」のための「コミュニケーションの極意」といえるでしょう。
そして「信頼感=エトス」編、人に何かを伝えるためには、ここで伝えられる内容を使えるところまで至ることができれば、コミュ障とかは関係なく最強でしょう。
「できれば話さないですませたい」という本音を抱えながらも、「大人として、社会人として、そんなことでは許されない」と言って肩肘張って無理をしている同士たちの救いとなるでしょう。