本書の概要
タイトル | : | 情報分析力 |
発行日 | : | 2024年11月10日 |
著者 | : | 小泉 悠 |
発行所 | : | 祥伝社 |
詳細 | : | 情報分析力 |
何故それが重要かーーインターネットで誰でも簡単に情報を得られ、発信できる時代。
しかし、そこから得られる情報は「そこにそう書いてある」以上の意味を持たない。
情報が溢れる時代だからこそ、情報から何を読み取るのかが非常に重要となる。
たとえば、企業の決算報告書は誰でもダウンロードすることができる。
しかし、これをどう読んだらいいのか知識がない人が見ても意味がわからない。
だが、投資家なら「業績悪化の兆候ではないか」のように読み取れる必要があるだろう。
主要なポイント・学び
自分の中に「情報処理装置」を作る。
情報処理装置とは、情報が何を意味しているかを知る方法。
本書は、情報処理装置の作り方の入門講座である。
補足

下の枠内は、本書で扱われる「用語」について補足したものです。
※AIの回答を参考にしています。
バックグラウンド情報ーーある特定のテーマや問題に関する背景や状況に関する情報を指す。
文脈を理解し、より深い洞察を得るために必要。
次のような情報がある。
- 歴史的背景:特定の出来事やテーマが過去にどのように発展してきたかを示す情報
- 文化的背景:文化的な要因や価値観がどのように影響を与えているかを示す情報
- 経済的背景:経済状況や市場の動向に関する情報
- 政治的背景:政治的な動きや政策に関する情報
- 社会的背景:社会の変化やトレンドに関する情報
コア情報ーー分析の基盤となる重要なデータや情報を指す。
意思決定や問題解決のために最も重要な情報であり、分析の目的に応じて変わる。
たとえば、ビジネス分析においては、次のような情報がある。
- 財務データ:収益、費用、利益などの経済的指標
- 顧客データ:顧客の行動、購買履歴、顧客満足度など
- 市場データ:市場のトレンド、競合状況、需要予測など
- 製品データ:製品の性能、品質、売上データなど
一次資料(生情報)ーー直接収集された未加工のデータや観測結果を指す。
コア情報には一次情報も含まれることがある(本書ではコア情報と同じ扱い)。
次のような情報がある。
- 調査データ:アンケートやフィールド調査の結果
- 観察データ:実験やフィールドワークで得られた観察記録
- インタビュー記録:インタビューの音声や文字起こし
- 公式文書:政府や企業が発行する公式レポートや声明
自分の足で稼ぐ情報ーー実際に現場に出向き、自分の足で直接情報を収集することを指す。
リアルな状況や具体的な事実に基づいた信頼性の高い情報を得るために行う。
次のような方法がある。
- インタビュー:関係者や専門家に直接話を聞き、一次情報を得る。
- 現地調査:現場を訪れ、実際の状況を観察し、データを収集する。
- 会議やセミナーへの参加:直接参加することで、その場で最新の情報や意見を聞く。
- アンケート調査:ターゲットとなるグループにアンケートを実施し、回答を収集する。
情報資料ーー特定のテーマや問題に関するデータや情報の集合体を指す。
情報が記録されているあらゆる形式のものを含む。
次のような情報がある。
- 書籍
- レポート
- データベース
- ウェブサイト
- 論文
インテリジェンスーー情報資料を基にして得られる分析結果や洞察、知見を指す。
特定の目的に応じた判断や意思決定を支援するための高度な分析や評価が含まれる。
OSINTーーOpen Source Intelligenceの略。
公開されている情報源から収集されるインテリジェンスを指す。
合法的に入手可能な情報を使用し特定の目的のために情報を分析、評価するために活用される。
たとえば、政府の公開データにおいては次のような情報源がある。
- 政府の報告書
- 統計データ
- 法令
- 規制文書
情報を集める
情報収集には目的と解像度が大事ーー情報要求とは、次のような問いである。
- 「私たちは何をわかっているべきなのか?」
- 「どんな解像度で知っておくべきなのか?」
情報需要者自身がどんな情報が必要なのかわかっていない場合も多い。
そのため、情報分析に携わる人には提案力を求められる。
分析の解像度合わせーー情報需要者にとって役に立つ解像度に調整しなければならない。
解像度は、高すぎても低すぎても役に立たない。
(例:「それを詳細に知ったことで何になるの?」)
この解像度の高低によって優先的にチェックする情報源が決まる。
情報をどこから取るのかーー公開情報インテリジェンス「OSINT(オシント)」を活用する。
OSINTは、分析対象の公刊資料を材料とする情報分析。
誰にでもできて、あらゆる情報分析の基礎となる。
公刊資料の限界ーーOSINTの材料である公刊資料は、分析対象自身に主導権を握られている。
英語には「known unknown」と「unknown unknown」という言い方がある。
- known unknown
存在していることはわかっているが、詳細や具体的な情報が不足している状態。
- unknown unknown
存在自体を認識していない未知の何かが存在している可能性。
OSINTで把握できている情報はあくまで全体のごく一部。
「unknown unknown」を意識しなければならない。
この欠けているピースをどう補うかを考えなければならない。
OSINTを補う手法ーー可能な限り他の情報源とも組み合わせる。
次のような情報を使うことができる。
- SNS情報
- 趣味的知識(オタク的知)
SNS情報は、脈略がなく断片的である問題がある。
扱うためには、体系化の技術が必要となる。
同じような投稿をWebクリップツールを使い次のような情報でタグ付け保存していく。
- キーワード
- 時間情報
- 位置情報(Google Earth上にプロットすることで地理的関係が掴める)
分野によっては、情報が体系化されて売り物になっている。
趣味的知識(オタク的知)は、解像度が異様に高すぎる。
そして、視野はあまりに狭い問題がある。
そのため、基本的に世の中の関心とは合致しない。
ところが、分析者の思考過程と結合することで相乗効果を生み出すことがある。
情報分析には、必要なときにオタクと繋がるネットワークを作ることが求められる。
最強の情報収集術「文章を書く」ーー情報資料を作るつもりで文章を書く。
文章とは、論理構造である。
論理構造の中に情報を当てはめていくことで情報同士が関係性が見えてくる。
同時に論理構造を繋げるために不足する情報がわかる。
つまり、収集すべき情報が見えてくる。
情報が集まったら、また文章にする。
すると、また不足する情報が見えてくる。
これを繰り返す。
情報の収集・分析・資料化は、こうしたスパイラル状に進んでいく。
情報処理装置を作る
情報処理装置とは?ーー情報の意味を読み取れる能力をいう。
この情報処理装置を自分の中に作り上げる方法について説明する。
バックグラウンド情報を蓄積するーー本を読み、日々の蓄積を心掛ける。
分析対象に関する背景や状況に関する情報を得られる本を選択する。
分析対象に焦点を絞った情報だけでは、目的に対して解像度が合わないことがある。
バックグラウンド情報があると分析対象を広い視野で捉え、目的に応じて解像度を調整できる。
コア情報に関する情報処理装置作りーー情報の収集と並行して行う。
まずは分析対象に関する先行研究(過去の著作や論文)を徹底的に読む。
それらを読めてきたら、文献についている参考資料リストの資料を読む。
これは一流の専門家たちと同じ舞台に立つということ。
生情報の読み方の鍛え方ーー生情報の読み方は、読み手に委ねられている。
「生」と呼ぶ理由は、料理になる前の食材の段階に等しいため。
読み方(調理法)の鍛え方は、専門家が書いた論文を読むこと。
次のような知見を得ることができる。
- データの解釈の仕方
- ツールの使い所
体系化するーー情報処理装置には情報の効率のいい検索性が必要。
タグ付けにより、効率的な検索と分類、関連情報をリンクすることで情報の体系化を行う。
具体的には、次のことを行う。
- 専門家が書いた論文を読む過程で情報処理装置の参考になる文献リストを作る。
- 情報収集の過程で参考となる資料に「考察」「分析」のタグを追加する。
自分の足で稼ぐ情報を分析に活かすーー情報に対するツッコミ力となる。
OSINTやその他の情報も重要ではあるが、この目で見た情報以外は鵜呑みにできない。
こういった情報に対して、自分の足で稼ぐ情報はツッコミ力を生む。
(例:公刊資料では○○となっていたが、実際を見ると××なのでは?)
自分の足で稼ぐ情報は、常に得られるわけではない。
その場合、二次的な情報で補える場合がある。
可能な限り情報を統合して解像度を必要なレベルまで上げることが求められる。
情報をまとめる
情報資料作りーーこれができなければ情報収集や分析もできない。
情報分析のための文章の書き方について説明する。
文章の書き始めで困ったらーー手元にある情報を図表やグラフにする。
これがスターターとして機能する。
図表が勝手にしゃべり出してくれる。
仮説を立てるーー図表がしゃべることを聞いていると仮説が生まれる。
これがバックグランド情報やコア情報を収集する上での指針となる。
収集した情報を体系化し、出典註付きでメモ書きすると情報資料の部品となる。
情報の収集・分析・資料化のスパイラルを進めていくと情報資料ができていく。
ただし、最初に立てた仮説には固執すべきではない。
仮説が間違っていそうなら評価を修正しよう。
スターターが機能しない場合ーー自分の脳みそを過大評価している可能性がある。
インプットの量が足りていないことが多い。
インプットを増やす、図表をもっと作る、現地に行ってみる。
それでもムリならインプットについて何か書いてみると情報資料らしきものになる。
人と話すことで、頭の中で言語化されていなかったことが突然飛び出してくることもある。
体裁を整えるーー情報資料本体が読まれることは少ない。
情報需要者は大抵忙しいためレポートを熟読する暇がない。
それでも情報が届くようにする義務が情報分析者にはある。
そのための体裁を整えるポイントには次のようなものがある。
- 冒頭に要約をつける
- 重要なキーワードには下線を引く
- 文章の中に見出しをつける(各パートの中身がだいたいわかるようにする)
- グラフをつける(文章を読まなくても理解できるようにする)
- わかりやすい言葉を使う(分析者の文章は「作品」ではなく「資料」)
まとめ・感想
情報分析力ってなんかかっこいい。
そんな安易な気持ちで手に取った本書。
しかし、内容は普段何気なく見ている情報に対する考えを改めてくれる作品だった。
情報分析者とは、バックグラウンド情報、コア情報、自分の足で稼ぐ情報を扱う。
これらの情報を日々蓄積していくことが大事。
自分の中に情報処理装置を作りアップデートしていく鍛錬が必要。
情報需要者の求めに応じて情報資料を提供する。
しかし、情報需要者から明確な情報要求があることは少ない。
そのため、相手が求める情報を提案する提案力が求められる。
情報の収集・分析・資料化を繰り返しながら最終的に情報需要者に提供する形に仕上げていく。
本書を読んで、情報分析に対するハードルを下げることができた。
情報処理装置を築くことが難しいことを知った上で、自分が分析したいテーマへの挑み方がわかった。
どうしたらいいか何もわからなかったときと比べて、とっかかりを得ることができた。
誰でも簡単に情報を得られ発信できる時代となり、良くなったことがたくさんある。
その反面、良くないことも増えた。
その1つが、情報自体の不確実性が増したこと。
また、いまでは誰もが生成AIを利用することができるようになった。
生成AIは短時間で大量の情報を生み出すことができる。
そんなAIもハルシネーションと呼ばれる「もっともらしい嘘」をつく。
嘘が溢れる時代を生きる自分に警鐘を鳴らす。
検索すれば情報を簡単に得ることができる。
情報から読み取れる結果も検索によって得ようとする自分。
誰かが読み取った結果を見て納得するだけの自分。
本書は、そんな自分に警鐘を鳴らしているように感じた。
何か1つでも情報処理装置を持っている人間は強い。
自分の大切なことや好きなことに対して真偽を見極めることができる。
情報の意味を考えて自分の答えを出せる力。
情報分析力は、やっぱりかっこよかった。