イントロダクション
タイトル | : | 武器としての漫画思考 |
発行日 | : | 2023年12月21日 第一版第一刷発行 |
発行所 | : | PHP研究所 |
著者 | : | 保手濱 彰人 |
著者情報は、上記リンクからご確認ください。 |
漫画は、多くの学びを与えてくれます。
それは、漫画をこよなく愛する者にとっての共通認識です。
しかし、本当に漫画から得られた学びを活かすことができているのか。
人生を振り返ってみると自信がありません。
私は、本書のタイトル「武器としての漫画思考」という言葉を見て思いました。
本書を読めば、漫画からもっと効率よく学びを得て、さらに無駄にすることなく活かすことができるのではないかと。
あと、単純に漫画をもっと楽しく読めるようになればいいな
そう思いながら、私は本書を手にすることにしました。
オススメしたい人
- 漫画が好きな人
- 漫画をあまり読まない人
- 漫画を人生やビジネスに応用したい人
- 漫画を読んでスキル(「武器」)を身につけたい人
- ビジネスシーンに効く漫画の読み方を知りたい人
学べること
本書では、著者が見出した「戦略としての漫画思考」を学ぶことができます。
漫画思考とは、簡単に言うと次のとおりです。
A:漫画の場面で「もし、自分が漫画のキャラクターだったら、どのように行動するだろうか」を考える
B:現実の場面で「もし、あの漫画のキャラクターだったら、どのように行動するだろうか」を考える
このAとBを繰り返す思考プロセスを通じて課題解決していくことです。
そして、「実感を伴った学び」を得ることで成長のきっかけを掴むことです。
ここでは、本書の内容を私の解釈で簡単にまとめています。
まず、漫画が他のメディアに比べて優れている点を説明します。
そして、本書の内容を理解するためのベースとなる「成人発達理論」と「インテグラル理論」の2つの理論に触れ、それぞれに本書の簡単な内容を関連付けて記載しています。
漫画は世界最強の情報伝達媒体
漫画は、世界最強の情報伝達媒体です。
その理由は、漫画は他のメディアに比べて情報伝達効率が高いからです。
情報伝達効率?
情報密度(α) = 情報量 ÷ 伝達時間
数式?難しい話でしょうか。
心配しないでください。
小学生でも理解できる簡単な内容です。
- 「情報量」
人がそれを見て、どの程度詳しい内容を理解するかを数量的に表したもの - 「伝達時間」
人が情報を理解するのにかかる時間の長さ - 「情報密度」
同じ時間で比較した場合、どの程度、詳しい情報を理解できるかという効率性
本書では、この「伝達時間」を重要視しています。
たとえば、同じ情報量なら60秒かけて理解できるメディアよりも1秒で理解できるメディアの方が、学習効率としては良いですよね。
漫画は、「伝達時間」を小さくすることができるメディアなのです。
つまり・・・どいうことだってばよ?
それでは、漫画が他のメディアに比べて情報密度、つまりは「学習効率」が高いということを具体的に説明します。
たとえば、次のイラストを見てください。
※ ここでは、本書と異なり漫画を載せることができないためイラストを使った説明に代えています。
このイラストの状況を説明する文章は、どのようなものになるでしょうか。
サンタクロースの帽子を被ってる女の子がいます。
赤い服を着ています。
雪が降っていて、女の子の背後にはクリスマスツリーがあります。
このイラストを見ずに、その文章だけを読んだ場合を想像してください。
文章を読んで、頭の中に情景をイメージするには時間がかかりますよね。
しかし、イラストを使えば見た瞬間に理解することができます。
この場合においては、文章よりイラストの方が情報伝達効率が高いということになります。
あくまで説明のための例であり、必ずイラストが文章より情報伝達効率が優れているというわけではありません。
それでは、漫画はどうでしょうか。
漫画は、いつだって最強なのです。
その理由は、漫画だけが持つ強みにあります。
右脳と左脳を活用する
漫画は、文字という「左脳中心の情報」と絵という「右脳情報」を扱います。
そのため、左脳と右脳の両方に情報を与えてフル活用し、効率よく学ぶことができます。
漫画は、左脳と右脳の可能性を最大限に活用した、人間の能力を大きく開放するメディアといえます。
漫画独自の表現技法
漫画は、視覚的なストーリーテリングの形式であり、そのために独自の表現技法を多数持っています。
1.オノマトペ
という漫画のシーンがあった場合、何が起こったのか一瞬で理解することができます。
「ドカァーン!」は、爆発音を表すときのオノマトペです。
オノマトペは、擬音語や擬態語の文字をビジュアル的に表現し、右脳に訴えかけることで読者に感情や状況を一瞬で伝えることができる技法です。
その一瞬の視覚情報は、人間の脳の認知の仕方により長い体感時間の疑似体験を生み出します。
動画の場合、違和感のないようにリアルに近い時間をかけて表現しなければなりません。
2.コマ割りとページ送り
漫画のコマ割りやページ送りも同様に物語を表現するための重要な手法です。
コマ割りは、物語の時間と空間を制御し、視覚的なガイドを提供します。
ページ送りは、物語の時間の流れを読者に示します。
コマの大きさによって、物語の登場人物の体感時間の長さを表すことができます。
動画の場合、実際に長い時間をかけた超スローモーションで表現するしかありません。
さらに漫画は、1ページ内に同時にコマ割りやページ送りによって「多アングル・複数チャネル」を共存させることによって、「多角的に」かつ「断続的に」情報を送り続けることができます。
これが、漫画が持つ最大の強みです。
動画の場合、1画面に1アングルでしか表現することができません。
ここまでの説明で、情報伝達メディアとしての漫画の威力を感じ取っていただけたと思います。
さらに、人の記憶は感情の起伏に比例して定着するものです。
人の感情に訴えかける漫画は、効率よく学びに導いてくれる世界最強の情報伝達媒体と断言できます。
成人発達理論
「成人発達理論」とは、発達心理学の権威であるハーバード大のロバート・キーガン氏が、2001年に「自己変革の心理学」という論文で発表した考え方です。
アメリカでは、大企業の経営や人材開発といった分野で「成人発達理論」の利用が進んでいます。
ここで、「成人発達理論て何?」となった方のために私が調べた内容を簡単にご紹介します。
ご存じの方は、読まずに飛ばしていただいて問題ありません。
成人発達理論では、「水平的成長」と「垂直的成長」の2つの成長タイプが提唱されています。
水平的成長
「水平的成長」は、知識やスキルの獲得、つまり知識量の拡大や技術の質の向上につながる成長を指します。
これは、日常業務で求められる専門性や基本的なスキルセットを獲得していくことに関連しています。
垂直的成長
「垂直的成長」は、人間としての「器」の拡大、つまり自己の視野や理解の深さを広げる成長を指します。
これは、自己の価値観や信念、他者との関係性、そして自己と他者の相互作用と共感を通じた自己変容といった、より深いレベルの成長に関連しています。
知性の3段階
第1段階:環境順応型知性
個人は環境に順応し、外部の期待や役割に従って行動します。
この段階では、他者の期待に応じて行動し、社会的な規範や期待に合わせることが重要とされます。
第2段階:自己主導型知性
個人は自己の価値観や目標に基づいて行動する自己主導型知性が発達します。
外部の期待や社会的な規範に縛られず、自分の内なる信念や動機に従って行動することが重要となります。
第3段階:自己変容型知性
個人は変化と成長を受け入れ、自己変容型知性を発展させます。
これは、絶えず変化する状況に柔軟に適応し、自らを進化させる能力を指します。
個人は継続的な学びや経験を通じて、自分自身を深く理解し、変容させることが求められます。
成人発達理論の5段階
第1段階:具体的思考段階
この段階では、個々の経験や具体的な出来事に基づいて物事を理解し、考える能力が発展しています。
抽象的な概念よりも具体的な情報に依存し、直感的な思考が特徴です。
第2段階:道具主義的段階
ここでは、人は目的を達成するために道具や手段を使いこなす能力が向上します。
手段と目的の関連性を理解し、物事を達成するために効果的な手段を選択するスキルが発展しています。
第3段階:他者依存段階
他者との関係が重要となり、自己のアイデンティティや評価は他者の期待や評価に大きく依存します。
社会的なつながりや規範への適応が強調され、他者との調和が求められる段階です。
第4段階:自己主導段階
この段階では、個々の価値観や信念が形成され、他者の期待から自立して自分自身を導く能力が発展します。
自分の目標や価値に基づいて行動し、他者の評価に左右されずに自分を確立します。
第5段階:自己変容・相互発達段階
最終段階では、個人は自分のアイデンティティを超え、他者との相互作用や共感に焦点を当てます。
自分と他者がお互いに影響し合い、共に成長する過程が重要視され、個人の自己変容が進む段階です。
この内容は、ChatGPT等を使って得られた回答を基にしています。
私で可能なファクトチェックは行っていますが、正確ではない情報が含まれている可能性があります。
ご自身でもご確認いただくことを推奨します。
さて、本書の内容に戻ります。
それでは、どうして「成人発達理論」は、そんなに注目されているのでしょう。
成人発達理論が注目される理由は、次のような「知性」の本質を説いているからです。
『武器としての漫画思考 第5章 人間の素晴らしさを漫画から学ぶ ――人はいつだって成長できる』より
- 知性は大人になっても発達する
- 本当の知性とは、IQや情報処理能力といったものではない
- 知性が高ければ言いわけではなく、環境によって適した知性の違いがある。決して優劣を付けるものではない
さらに「知性の発達」において「新たな視点の獲得」が最重要です。
「知性の発達」とは、次の内容を指します。
『武器としての漫画思考 第5章 人間の素晴らしさを漫画から学ぶ ――人はいつだって成長できる』より
- それまで自分を固定化していた、価値観や考え方を客観視すること
- その価値観や考え方が「絶対ではないこと」を知り、新たに良質な視点が出てきたら素直に受け入れること
漫画の主人公たちの成長は、成人発達理論における成長(いずれかの段階から次の段階へのステップアップ)と一致しますね。
漫画を通じて人間的な成長を
「新たな視点の獲得」には、「大きな屈辱や挫折」のような衝撃の体験を経る必要があります。
葛藤し、自己否定し、客観視し、内省する。
そうして得られた新たな視点が、知性を成熟させていくステップアップに繋がるのです。
普通に生きていて極限状態に身を置く経験はなかなか無いと思います。
だからこそ、疑似体験として漫画から学びを得ることに意義があります。
そこから得られる理論やエッセンスをありがたく享受し、大いに日々の仕事や生き方に活かしていきましょう
大失敗してしまっても決して諦めないでください。
諦めなければ、漫画の主人公たちのように「新たな視点の獲得」に繋げることができるかもしれません。
ピンチは、もっと良い道を切り開く大チャンスでもあると言えるのです。
インテグラル理論
「インテグラル理論」は、現代アメリカのニューエイジの思想家であり、トランスパーソナル心理学の論客・哲学者のケン・ウィルバーにより、2000年に提唱されました。
『武器としての漫画思考 第3章 人を動かす「主人公たちのリーダーシップ」 ――相手の世代に応じてキャラを使い分けろ』より
本理論は特に海外で、発達心理学や経営・人事といった分野を中心に、広く支持されていますが、人・組織・社会・世界の全体像をより正確につかむためのフレームワークとして、筆者が人生で最も感銘を受け、バイブルとしている理論でもあります。
インテグラル理論では、「人々や集団の意識は、時代の変遷とともにスパイラル(螺旋形)のように成熟していく」ことを示すフレームワークとして、次のように「色」を活用して発達の各段階が表現されています。
次の表は、本書『武器としての漫画思考 第3章 人を動かす「主人公たちのリーダーシップ」 ――相手の世代に応じてキャラを使い分けろ』の内容を参考に作成したものです。
本書と同様に、グリーンより上の階層「イエロー」と「ターコイズ」に関しては扱いません。
発達段階 | 色 | 概要 |
---|---|---|
1 | ベージュ | 意識が発達しておらず、動物的な生存本能によって行動する段階 「赤ちゃん」をイメージすればわかりやすいでしょう。 |
2 | パープル | 見えないものを信仰し、儀式や祈りに頼って部族を守る段階 呪術的であり、未開の地の原住民、などを想像してください。 |
3 | レッド | 弱肉強食で、個々の強さが絶対的な指標となる段階 古代の英雄やギャング、昭和の家父長制もイメージできます。 |
4 | ブルー | 規律やルールができ、それらを絶対として遵守する段階 非常に官僚的であり、現在の日本社会はここに重心があります。 |
5 | オレンジ | 個々の自由や尊厳を認め、成功のために合理的な行動を取る段階 起業家的で、アメリカにおいての意識の重心はここにあります。 |
6 | グリーン | 他者を尊重し、融和して強調する段階 ESGやSDGs、LGBTが認められてきたのもその一環です。 ただし、これを利権として活用し、あまりに主義主張が押し付けがましい団体が出てきているという弊害もあります。 |
これらの色は、人間の意識の発達段階を表しています。
それぞれの色は、前の色から進化し、次の色へとスパイラル的に変化していきます。
グリーン段階によっていくほうが、より理想的な状態になっていきます。
また、インテグラル理論は、国や地域の特徴にも言及できる汎用性が魅力です。
意識の変遷を、リーダーシップに活用する
価値観は、時代に合わせて変遷していきます。
組織が置かれている状況や、人々の意識段階次第で必要なリーダーシップは変わります。
そのため、リーダーには次のことを把握する能力が求められます。
- 自分が所属している組織や環境が今、どの意識段階に属しているか
- 今の自分に求められているリーダーシップは何なのか
インテグラル理論の中では、絶対的に正しい価値観など存在しません。
たとえば、世紀末の荒野、暴力と支配によるレッド型の世界では、レッド型のリーダーシップが必要になります。
たしかに極悪なバイクに跨り「ヒャッハー!!」と雄たけび上げながら突っ込んでくるモヒカン野郎を相手にブルー的な「規律やルール」は役に立ちそうにありませんね。
複数の「色」を出し分ける
一個人の中でも、異なる意識段階が併存しています。
たとえば、次の例のように置かれた状態や状況によって意識段階の変動が起きます。
- 憎きライバルの前で、強い怒りにより力で圧倒したい自分が出ているときは「レッド段階」
- 愛しい恋人の前で、幼い自分が出ているときは「ベージュ段階」
状況や環境によって、適した意識段階を使い分けることが理想です。
そのために自分が読んだことのない意識レベルを扱っている漫画を積極的に読むことをオススメします。
読んだ感想
本書を読んで、漫画という情報メディアとしての偉大さに気が付くことができました。
漫画をもっと読みたい!いや、読むべきだ!
本書を読み終わり、ものすごくそう思っています。
近頃の私は、漫画を読む時間がとれず、買っても積読になってしまっています。
いまの状態を反省し、年末年始は気合を入れて、たくさんの漫画を読みたいです。
本書で学んだ「成人発達理論」と「インテグラル理論」。
この2つの理論を踏まえたうえで漫画を読むと、より深く内容を知り、より多くのことを吸収することができるのではないかと思います。
読んだことがある漫画も、もう一度開いて2つの理論を当てはめながら読めば、気づかなかった多くの学びや面白さをまだたくさん搾り取れるような気がしています。
私が次に買う漫画を決めるときは、「インテグラル理論」を意識した選び方をしたいと思っています。
これまで自分で選んだ漫画は、やや「色」に偏りがあるようなので、馴染みのない「色」の作品にする予定です。
そして、漫画を読む際には、登場人物の成長に「成人発達理論」を照らし合わせながら読んでみたいと思っています。
登場人物が、どんな「新たな視点」を得ることで次の段階にステップアップしたかに注目することで、どんな学びを得られるのか、いまから楽しみにしています。
次に買う漫画の選び方の話に戻りますが、そうすると、この漫画選びは非常に重要です。
そこで、本書の巻頭にある付録「仕事と人生に効く! 激推し漫画作品100選」が役に立つと感じています。
最初は、「あ、この漫画は読んだことある」「この漫画は知らないな」と思いながら眺めただけでした。
しかし、本書を読み終えたいま、本書から獲得した新しい視点で再度見直したいと考えています。
また、本書によれば、各時代の主要な漫画作品は、当時の人々の意識段階とリンクしているそうです。
昭和、平成、令和とそれぞれの時代に求められるものが存在したように、これからの時代を知るために流行りの漫画を読むことも欠かせないことだと思っています。
漫画をあまり読まないという人も世の中にはたくさんいるでしょう。
そんな人も、まずは本書を読んで漫画の有用性を感じて欲しいです。
きっと、漫画を読みたくなるはずです。