イントロダクション
タイトル | : | 行動経済学が最強の学問である |
発行日 | : | 2023年6月 8日 初版第1刷発行 2023年6月15日 電子版第1版発行 |
発行所 | : | SBクリエイティブ |
著者 | : | 相良 奈美香 |
著者情報は、上記リンクからご確認ください。 |
本書の商品紹介によれば、行動経済学ほど「イケてる学問」はないそうです。
行動経済学は「ビジネスパーソンが最も身につけるべき教養」とまで書かれています。
実際、世界の名だたるトップ企業の間で「行動経済学を学んだ人材」の争奪戦が頻繁に繰り広げられているようです。
私は、行動経済学がどんな学問なのか知らないので難しく感じてしまいます。
しかし、いまビジネス界が注目する学問であることを知ったのなら、早々に触れておくべきでしょう。
本書は「入門書」であるため読めば誰でも得られるものがあるはずです。
そう思い、私は本書を手にすることにしました。
オススメしたい人
- 行動経済学に興味がある人
- 誤った判断を減らし、より良い意思決定ができるようになりたい人
- ネガティブな感情を理解し、有効活用できるようになりたい人
- お金の無駄遣いをなくしたい人
- 行動経済学を日常生活やビジネスに活かしたい人
学べること
アカデミックの世界では、行動経済学の体系化にはあと100年はかかるといわれているそうです。
それでも、著者はビジネスパーソンからの要望に応えるため、ビジネス界のための体系化を行うことにしました。
それを記したものが本書です。
本書は、行動経済学を「初めて整理・体系化」した入門書です。
ここでは「行動経済学とはどんな学問なのか」と「体系化する上で3つに分かれたカテゴリーに分類される理論を1つずつ」を、私の解釈で簡単にまとめた内容を記載しています。
これだけでも十分使える内容ですが、ビジネス等に活かしたい場合は、本書ですべての理論を学んでから実践することをオススメします。
行動経済学とは何か?
行動経済学
本書では、行動経済学を「人間の『非合理な意思決定のメカニズム』を解明する学問」と定義します。
これが、著者が体系化のために明確化した行動経済学の「本質」です。
経済学
行動経済学が誕生する前「経済活動における『人間の行動』を科学する学問」は経済学でした。
しかし、人間は常に『合理的に行動する』としている経済学では「人間の行動」を解明するには限界がありました。
経済学には「人間は非合理な生き物である」という大前提が欠けていたのです。
人間は非合理な生き物
例えば、痩せたいと望みながら、太るとわかっていて夜食テロに屈して深夜にカップラーメンにお湯を注いでしまうように、私たちは時として「非合理な意思決定」をしてしまうことがあります。
経済学と心理学の融合
経済学に足りなかった人間の「心理面」を加える必要から、経済学と心理学が融合しました。
その結果、誕生したのが行動経済学です。
行動経済学により、経済活動における「人間の行動」全般を解明することができるようになりました。
ビジネスパーソンが行動経済学を学ぶ理由
多くの企業は、競争相手より優位に立とうと行動経済学を使っています。
企業は、行動経済学を使っていることをお客様に知られたくありません。
行動経済学を学ぶと「このサービスは行動経済学が裏にあるな」とわかるようになります。
あらゆる企業の戦略が張り巡らされた今、行動経済学を身につければ世界が違って見えます。
『序章 本書といわゆる「行動経済学入門」の違い
- 消費者側としては、企業の戦略に乗せられないように賢くなれる。
- 企業側としては、顧客にサービスや商品をより多く楽しんでいただくための戦略家になれる。
そもそも行動経済学は「なぜ生まれたのか」のか?
伝統的な経済学では「人間の行動」は解明できない』より
行動経済学により『非合理な意思決定のメカニズム』を理解することで、自身や他者の行動への対策を講じることもできるようになります。
「非合理な意思決定」を決める3つの要因
本書では、「非合理な意思決定のメカニズム」を中心に捉え、この「非合理な意思決定のメカニズム」に影響を与える3つにカテゴリーを分けています。
そして、それぞれのカテゴリーには行動経済学の各理論を分類しています。
3つのカテゴリーに分類され、体系化されることで「主要理論」が有機的につながります。
次の図は、そのことをわかりやすく表したものです。
人がついつい「非合理な意思決定」をしてしまうメカニズムには、大きく3つの要因があります。
- 認知のクセ
「認知のクセ」とは、「脳の情報処理の仕方」です。
この「脳の情報処理の仕方」には「歪み」が存在します。
「歪み」により情報を素直に受け止めることができないことが「非合理な意思決定」につながります。 - 状況
人間が非合理な判断をしてしまう要因は「脳の外」にもあります。
天気の良し悪しや周りに人がいるか否か、物や人の位置や順番、時間帯などが、人間の判断に大きな影響を与えています。
そのことを知らずにいると「非合理な意思決定」をしてしまいます。 - 感情
不安のためベストを尽くせなかったり、怒りであり得ないミスをしてしまうように「感情」は人に不合理な判断をさせます。
感情には、強い感情を示す「エモーション」と、喜怒哀楽とまではいかない淡い感情を示す「アフェクト」があります。
行動経済学では、日常生活で抱く機会の多い「アフェクト」に注目します。
認知のクセは「脳の中」のことであるため、常に意思決定に影響を与えています。
また、私たちは常に状況の影響を受けていますし、感情は「変化の幅」が大きい要素です。
つまり、3つのカテゴリーは互いに関係し複雑に絡み合って影響を与えるケースがほとんどです。
要因① システム1 VS システム2
「認知のクセ」を生む最も基本となる理論「システム1 VS システム2」について紹介します。
人間の脳は、情報処理をする際に2つの思考モードを使い分けています。
- システム1
人間の意思決定のデフォルトであり、直感的で瞬間的な判断します。
瞬時に判断することにより間違った意思決定をしてしまうことは往々にしてあります。 - システム2
注意深く考えたり分析したりと時間をかけて判断します。
場合によって瞬時に判断した方が良いこともあるので、システム2がシステム1より優れているというわけではありません。
システム1とシステム2は、無意識下で連動し同時に動き、時と場合によって配分が変わります。
適切でない場面でシステム1が働いてしまう時は6つ
どんな時にシステム1を使いがちになるかを知ることは、誤った判断をしないための助けとなります。
『第1章 認知のクセ 脳の「認知のクセ」が人の意思決定に影響する
- 疲れているとき
- 情報量・選択肢が多いとき
- 時間がないとき
- モチベーションが低いとき
- 情報が簡単で見慣れすぎているとき
- 気力・意志の力(ウィルパワー)がないとき
認知のクセを生む「大元」は何か?
人はいつ、システム1を使いがちか?』より
現代を生きる私たちは、システム1を使ってしまいがちな環境にあることを認識し、意識していくことが必要です。
要因② 情報オーバーロード
「情報オーバーロード」とは「多すぎる情報のせいで、人が非合理な行動をしてしまう」ことです。
人は、大量の情報にさらされると集中力を失い、メンタルと体の健康がむしばまれます。
多すぎる情報は、人を疲れさせ、意思決定を妨げるのです。
また、「情報オーバーロード」の問題は、「選択オーバーロード」という理論にもつながります。
選択肢が多すぎることでも、人は選べなくなってしまいます。
人間は、多くの選択肢があることを好みますが、多すぎると決められません。
それでは、どのように選択肢を提示したら、相手に選んでもらえるのでしょうか。
そこで生まれたのが「選択アーキテクチャ」という考えです。
世界の企業は、実際にさまざまな選択アーキテクチャを駆使しています。
例えば、Amazonは、ユーザーのデータを蓄積し、アルゴリズムを使って「おすすめ商品」を出しています。
価格順、新しい順、人気順などのフィルターを採用し、消費者が選びやすくしています。
要因③ ポジティブ・アフェクト、ネガティブ・アフェクト
人間は常に「アフェクト」を感じ、それが絶えず意思決定に影響しています。
「アフェクト」には、「ポジティブなアフェクト」と「ネガティブなアフェクト」があります。
ポジティブ・アフェクト
ポジティブな感情は、仕事の効率も質も上げて心身のストレスを軽減してくれます。
行動経済学を理解しているビジネスエリートは自分自身と他人のアフェクトに敏感で、それを意図的かつ有効に使っています。
アフェクトは淡く微かな感情であるためすぐに消えてしまいますが、逆に言えばすぐに生み出すことができます。
楽しかった家族旅行の写真を仕事場のデスクに飾ったり、会議後に温かい飲み物を飲んでホッとする等で、すぐにポジティブ・アフェクトを活用することができます。
ポジティブ・アフェクトが高まり、自己肯定感が上がれば注意力、思考力も高まります。
仕事の質が上がれば業績も自然と上がります。
そのため、ポジティブ・アフェクトを積極的に取り入れることは、重要な仕事であると言えます。
ネガティブ・アフェクト
ネガティブ・アフェクトとは、言ってみれば「脳の中の小さな不安や不満」です。
小声でつぶやかれているので注意しないと聞き取れません。
しかし、放っておくと大きくなってしまい心身に深刻な不調をもたらす害となります。
ネガティブな感情を理解し、できるだけ有効活用するという考えがあります。
それが「認知的再評価」です。
自分が抱いている漠然とした感情を理解し、再評価し、役立てるというものです。
そのためにまず、脳の中のアフェクトに注意を払うクセをつけましょう。
例えば、仕事でミスをして落ち込んでしまった時も「いい勉強になった。次はもう大丈夫だ」と再評価することでネガティブ・アフェクトが減少するという研究結果もあります。
読んだ感想
本記事で掲載した行動経済学の理論は、各カテゴリーにつき1つですが、本書では様々な理論が紹介されています。
1つ1つの行動経済学の理論が、すごく面白いし役に立つ内容でした。
また、自分で考えて判断しているつもりが、状況や環境からも多くの影響を受けていることがわかって本当に気をつけなければならないと思いました。
純粋に自分の意志のみで判断していることなんて実は無いのかも?
自分の意志って一体、何なのでしょうか。
本書を読めば、FAANGのような世界が注目する巨大企業だけではなく、食品から医薬品まで多くの大手メーカーが行動経済学をビジネスに取り入れていることがわかります。
例えば、スターバックスのモバイルアプリは行動経済学を徹底的に活用して作られている等、良く使うサービスにも実は行動経済学が使われているということを知ることができて面白かったです。
企業が行動経済学を使うことによって、消費者に対しても益があることなら良いのですが、知らず知らず、企業の戦略に乗ってしまい意図しない消費を促されていることもあるかもしれません。
行動経済学を知れば「非合理な意思決定」を回避して自分を守ることができるようになれるかもしれません。
逆に自分が行動経済学を上手く使う側になることができれば、自分自身や他人を良い方向に導く等してビジネスで優位に立てるようになります。
行動経済学を上手く使うためには、各理論をしっかり理解することが重要です。
本書は、行動経済学を「初めて整理・体系化」した入門書であり非常にわかりやすく書かれていると思います。
行動経済学を学びたいと思う人は、最初の第一歩として本書を購入して読んでいただくことをオススメします。