【要約】『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』を習得できる事例豊富な入門書

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タイトルエフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」
発行日2023年8月29日 プリント版第1刷発行
2023年8月29日 電子版発行
発行所 ダイヤモンド社
著者吉田 満梨, 中村 龍太
著者情報は、上記リンクからご確認ください。

最初に、気づけと言わんばかりの本書の黄色い表紙に目が留まり、次に大きな鳥に目が行きました。
タイトルを見ると「Effectuation(エフェクチュエーション)」という知らない言葉がありました。
さらに表紙をよく見ると「世界的経営学者が発見した、戦略や計画よりも重要な思考法を習得できる日本初の入門書!」と書かれています。

これは、新しい発見がありそう!

なんだか難しそうですが、「入門書」ということなので私でも理解できるかも?
そう思い、本書を手にすることにしました。

オススメしたい人

  • 何かを始めたいと思うけど何をすればよいかわからない人
  • やりたいことは見えているけど失敗を考えると躊躇してしまう人
  • 自分自身の能力やアイデアにそもそも自信がない人

学べること

本書は、優れた起業家の思考法「エフェクチュエーション」の日本初の入門書です。
「入門書」ということで初心者でも理解できるように丁寧に解説されています。
もし、理論だけの説明なら具体的な実践方法のイメージが難しいかもしれませんが、要所で事例を紹介してくれる親切設計であるため初心者でも安心して学ぶことができます。
ここでは、本書の内容を私の解釈で簡単にまとめています。
本書は入門書であることから、エフェクチュエーションの実践には本書を購入して細部まで正しく理解する必要があります。

エフェクチュエーション(effectuation: 実効理論)

エフェクチュエーションとは
エフェクチュエーションは、現在米国のヴァージニア大学ダーデンスクールで、アントレプレナーシップの教授を務めるサラス・サラスバシーという経営学者によって提唱されました。
エフェクチュエーションとは、「熟達した起業家と呼びうる人々に対する意思決定実験から発見された、高い不確実性に対して予測ではなくコントロールによって対処する思考様式」です。
経験ある起業家は、きわめて不確実性の高い問題に対して共通の論理を好んで活用していました。
その論理は、具体的には5つの特徴的なヒューリスティクス(経験則)であり、それらは総体として「エフェクチュエーション」と名付けられました。

エフェクチュエーションの発見がもたらした2つの意義

  • 新たな事業や企業、市場を作り出す起業家による偉大な成果というのは、彼らの特性や資質によるものではないことを明らかにしたこと。
  • 不確実性への対処において、私たちの慣れ親しんだ予測合理性とは異なる、代表的なアプローチの有効性を提示するものであったこと。

コーゼーション(causation:因果論)

エフェクチュエーションの説明の前に比較対象となるコーゼーションについて説明します。

これまでの経営学が重視してきたコーゼーション
コーゼーションの思考様式では、目的に対して最適な手段を追求します。
これは、予測に基づいて機会を特定したうえで、成功する見込みの高いプロジェクトに効率的に経営資源を配分することが可能な、合理的なアプローチです。
具体的には、次のプロセスにより行われます。

『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」
第1章 エフェクチュエーションとは何か
これまでの経営学が重視してきたコーゼーション(因果論)』をもとに作成しています。
  1. スタート時点で具体的な目的が特定されている必要があります。
     
  2. 顧客のニーズや、競合する企業や製品・サービスについて分析するために、体系的なマーケティング・リサーチが実施されます。
     
  3. マーケティング・リサーチ結果を基に期待利益を予測して、できるだけ正しい戦略計画を策定することが重視されます。
     
  4. 最適な計画・戦略を実行するために必要な資源を調達・配分して、計画通りに実行し、当初の目標を達成することが目指されます。
     

ただし、コーゼーションが有効であるのは、当初から目的が明確であり、また環境が分析に基づいて予測可能な場合に限られます。
環境の不確実性が高い場合や活用できる資源に制約がある場合では、コーゼーションのアプローチではすぐに行き詰ってしまいます。

コーゼーションでは、不確実性の削減が重視される
不確実性とは、一般に「職務を完遂するために必要とされる情報量と、すでに組織によって獲得されている情報量とのギャップ」と定義されています。
最適な計画を立てることが重視されるコーゼーションの発想では、想定外の事態は計画からの逸脱、コントロール可能性の損失を意味するため、できるだけ避けたいものと考えられます。
不確実性への対処に共通する基本方針として「追加的な情報を収集・分析することによって、情報量のギャップを埋めることで不確実性を削減させる」ことが目指されます。

ナイトの不確実性(Knightian Uncertainty)

コーゼーションでは対処できない不確実性の存在について、エフェクチュエーションを提唱したサラスバシーは3種類の壺の例によって説明しています。

「中身の見えない壺の中に手を入れて、赤いボールを引き当てたら勝ち」というゲームです。

第一の壺
壺の中に赤いボールが50個、緑のボールが50個入っていることが事前にわかっています。
赤いボールを引き当てられるかは不確実であるものの、成功確率は50%です。

第一の壺

第二の壺
壺の中に赤いボールと緑のボールが、何個ずつ入っているか事前にはわかりません。
ただし、チャレンジする前に試しに何度か引いてみることができます。
試し引きで10回に2回程度赤いボールが出ることを学習できたとします。
つまり、追加的な情報を収集することによって、成功確率が約20%であると予測できるようになります。

第二の壺

第三の壺
事前に壺の中の赤いボールの数はわかりません。
ただし、チャレンジする前に試しに何度か引いてみることができます。
試し引きでは何度引いても一向に赤いボールが出ません。
そればかりか、緑のボールすら出ません。
青のボールや黄色いボールなど、想定しなかった色のボールばかり出てきます。

第三の壺

第一の壺、第二の壺にたとえられる、試行を繰り返したり同類の経験を多く集めたりすることで統計的確率を予測できるものは「リスク」にすぎません。
第三の壺にたとえられる計測不可能な不確実性こそが「真の不確実性」です。
真の不確実性」への対応こそが起業家が利潤を手にすることができる源泉です。

実際に、この3種類の不確実性を区別し、そう主張したのは、フランク・ナイト(Frank Knight)という経済学者です。
このことから「真の不確実性」は、「ナイトの不確実性」とも呼ばれます。

多くのビジネスで想定される「リスク」に対しては、コーゼーションの予測合理性なアプローチによる対処は有効です。
しかし、新たな事業や市場といったものは本質的にユニークです。
そのため、同類の経験を多く集めて分析するというコーゼーションのアプローチによって不確実性を縮減することはできません。

エフェクチュエーションの5つの原則

エフェクチュエーションとは、具体的には5つの特徴的な思考様式の総称です。
エフェクチュエーションのプロセスと5つの原則について説明します。

『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」
第1章 エフェクチュエーションとは何か
エフェクチュエーションの5つの原則』をもとに作成しています。

原則1:手中の鳥(bird-in-hand)の原則
最初から市場機会や明確な目的が見えなくとも、自分がすでに持っている「手持ちの手段(資源)」を活用することで、「何ができるか」というアイデアを発想します。
この思考様式は、「手中の鳥の原則」と呼ばれます。


原則2:許容可能な損失(affordable loss)の原則
「何ができるか」のアイデアを実行に移す段階、うまくいかなくなった場合のダウンサイドのリスクを考慮して、その際に起きうる損失が許容できるかという基準でコミットメントが行われます。
この思考様式は、「許容可能な損失の原則」と呼ばれます。


「手中の鳥の原則」「許容可能な損失の原則」を用いることで「何ができるか」について具体的なアイデアを生み出し、行動に移すことが可能になります。

「手中の鳥(bird-in-hand)の原則」の名称は、英語のことわざである
A bird in the hand is worth two in the bush.
(手中の1羽は、藪の中の2羽の価値がある)
に由来するものです。

原則3:クレイジーキルト(crazy-quilt)の原則
コミットメントを提供してくれる可能性がある、あらゆるステークホルダーとのパートナーシップの構築を模索します。
この思考様式は、「クレイジーキルトの原則」と呼ばれます。


新たな手段
「クレイジーキルトの原則」を活用して、パートナーのコミットメントを得ると、新たなアプローチが生まれ、初めに持っていた「手持ちの手段(資源)」が拡張されます。
それにより、再びパートナーと一緒に「何ができるか」を考えることができます。
これは、図の上側のフィードバックループに従って繰り返しサイクルが回ることを意味します。


新たな目的
さらにパートナーは、新たな「目的」ももたらすことが考えられます。
下側のフィードバックグループのように、パートナーが持ち込む新たな目的もまた「何ができるか」の方向性に影響を与え、行動を改めて定義しながらプロセスが繰り返されることになります。



プロセスを繰り返す

原則4:レモネード(lemonade)の原則
偶然手にしてしまったもの、もたらされたものを受け入れたうえで、それを自らの「手持ちの手段(資源)」の拡張機会としてポジティブにリフレーミングします。

この思考様式は、「レモネードの原則」と呼ばれます。
たとえば、失敗や思った通りに進まない現実も学習機会と捉え、新たな行動を生み出すために活用しようとします。


リフレーミング(reframing)は、自身の認知や活動の枠組みが変わることによって、同じ出来事に対する受け止め方や反応の仕方が新しいものに変わることを意味します。

「レモネード(lemonade)の原則」の名称は、格言である
When life gives you lemons, make lemonade.
(人生が酸っぱいレモンを与えるなら、レモネードを作れ)
に由来するものです。
この場合のレモンは、不都合な結果を意味します。

原則5:飛行機のパイロット(pilot-in-the-plane)の原則
自らがコントロール可能な活動に集中し、このプロセスを回し続けることによって、自分自身ですら最初には思いもしなかったような新しい製品・事業・市場の可能性に至ります。
予測ではなくコントロールによって望ましい結果を生み出そうとするのです。
この思考様式は、「飛行機のパイロットの原則」と呼ばれます。

手中の鳥(bird-in-hand)の原則

「手中の鳥」とは、不確実な資源を追い求めるのではなく、自分の「手持ちの手段(資源)」を活用して、すぐに具体的な行動を生み出すことを意味しています。

手持ちの手段(資源)の種類
「手持ちの手段(資源)」には3種類のカテゴリがあります。

  1. 私は誰か(Who I am)
    自分の特性や趣味、能力や性格
     
  2. 私は何を知っているか(What I know)
    自分が活用できる知識、専門的な知識やスキル、趣味や過去に受けた教育から得た知識、あるいは人
     
  3. 私は誰を知っているか(Whom I know)
    自分が頼ることができる人とのつながり、社会的ネットワーク
     

これらの手段に基づいて「何ができるか」を発想し、実行可能な複数の行動方針を生み出していきます。
3種類の手段に加えて、「余剰資源(Slack)」を考慮することも有効です。

これには、コーゼーションと比較して、すぐに行動を起こせるメリットがあります。
手持ちの手段(資源)に少しひねりを加えることで「何ができるか」を発想します。
そして、具体的な行動のアイデアを生み出します。
ただし、このアイデア発想の時点では、それが優れたアイデアなのか、有望なアイデアなのかを判断する必要はありません。
それよりも自分自身がそのアイデアに実行する意味を見出せることが重要です。
アイデアが本当に有望な事業機会となりうるかどうかは、そこに何かのコミットメントを提供してくれるパートナーを獲得できたときに初めて明らかになります。

許容可能な損失(affordable loss)の原則

「許容可能な損失の原則」では、事前に予測された期待利益より、行動により生じる損失可能性に基づいて、行動へのコミットメントを行います。

行動により生じる損失の中には、投資されたあらゆる資源を含みます。
たとえば、費やした資金や時間や労力、犠牲にした別の機会などが損失になり得ます。

許容可能な損失の範囲で行動するメリット
許容可能な損失の範囲で行動するメリットは、3つあります。

  • メリット1:予想に頼らなくても済む状態を作り出せる
    期待利益を計算するなら、未来の売り上げや資本コストに関するリスクなど、さまざまな「予測」に基づく評価が必要になってしまいます。
    しかし、許容可能な範囲で行動しようとする場合では、現在の財務的状況と最悪のケースに備えた心理的コミットメントの評価を知るのみです。
     
  • メリット2:再チャレンジが可能
    うまくいかない可能性を事前に考慮し、それを自分が受容できることがわかっているため行動を始める心理的ハードルが低いことです。
    また、損失に対して事前にコミットメントを行うため、成功するかどうかの予測に労力を費やす必要がありません。
    一番重要なことは、失敗が致命傷とならないため、再度別の方法でチャレンジすることが可能であることです。
     
  • メリット3:失敗は成功のもと
    失敗が致命傷とならないため、先行する失敗経験を後の成功確率を上げてくれる学習機会と見なせるようになります。
     

許容可能な損失の範囲で行動するための視点
許容可能な損失の範囲で行動するためには、2つの視点を考慮することが重要です。

  • 必要な視点1:本当に必要な資源はどれくらいか
    着手する時点で最初に投入する資源をできるだけ小さくできないか、と考えることです。
     
  • 必要な視点2自分は何を失っても大丈夫か、逆に何を失うことを危険だと思うのか
    失うことを許容できない資源をなるべく危険にさらさないように着手することです。
     

さらに「行動しないことの機会損失」も考慮されるべきです。
たとえリスクを伴うとしても思い切って行動することのほうが、より損失可能性を低くする、合理的な意思決定といえるでしょう。

クレイジーキルト(crazy-quilt)の原則

コーゼーションのアプローチでパートナーシップを模索する場合、まず行動に先立って、誰が顧客で、誰が競合なのかを定義したうえでさまざまなリサーチを行い、顧客とは関係を構築し、競合には対抗するための、最適な戦略が立てられます。
一方、エフェクチュエーションにおける意思決定では、マーケティングリサーチや競合分析を積極的に行わない傾向にあります。
その理由は、たとえば、いまだ市場が存在しない新規の事業であるならば、誰が顧客で、誰が競合になるかは、事後的にしかわかりようがないと考えるからです。
そのため、「クレイジーキルトの原則」では、むしろ交渉可能な人たちとは積極的なパートナーシップを求めます。

「クレイジーキルトの原則」の特徴
「クレイジーキルトの原則」の特徴は、2つあります。

  • 特徴1:自発的な参加者を重視する
    パートナーが自らコミットメントを提供する関係性を大切だと考えます。
    報酬によって構築されたパートナーシップは、予期せぬ事態が起こった場合、継続することが困難になります。
    しかし、自発的な参加者は、予期せぬ事態が起こった場合でも一緒にレモンからレモネードを作ることを模索できる可能性が高いと考えられます。
     
  • 特徴2:パートナーは多様なコミットメントを提供しうる
    新たなパートナーの参加によって手持ちの手段(資源)が拡張さえると「私たちは誰か/何を知っているか/誰を知っているか」へと変化します。
    それに基づいて「何ができるか」もまた拡張的に再定義されることになります。
    さらにパートナーは、新たな目的をもたらして未来を一緒に共創していく役割を担うことがあります。
     

「クレイジーキルトの原則」におけるパートナーシップの考え方
コーゼーションの発想に基づいてパートナーシップを模索しようとする際には、「売り込み(seling)」が重視されます。
エフェクチュエーションではそれと異なるアプローチである「問いかけ(asking)」が重視されます。

売り込み(seling)
コミットメントを獲得しようとする行動の結果は、成功か失敗のいずれかです。
基本的には一人のパートナー候補に対して一回きりの交渉が想定されています。

問いかけ(asking)
コミットメントを獲得しようとする行動の結果、期待した資源が得られなかったとしても、必ずしも失敗とは考えません。
一人のパートナー候補に対して、どのようなコミットメントであれば可能かを繰り返し問いかけることができます。
また、場合によっては、パートナー候補の方が、こちらの手持ちの手段に大きな価値を見出し「自らが実現したいアイデアを一緒に形にできないか」を問いかけてくることもあるかもしれません。

レモネード(lemonade)の原則

「レモネードの原則」では、予期せぬ事態を自らの手持ちの手段(資源)の拡張機会と捉えます。
たとえば予期せぬ出会いは「誰を知っているか」、予期せぬ情報や出来事は「何を知っているか」に加えたうえで、新しく「何ができるか」を発想しようとします。

「何ができるか」を発想する、レモネードが生み出される可能性
重要なのは、自分自身がその取り組みを意義あるものと考え、自分で決めて行動しているという前提です。
その前提があるからこそ、不都合な経験を受け入れたうえで「何か新しくできる行動はないか?」を模索する態度が生まれます。
「レモネードの原則」は、レモンをより美味しいレモネードの材料にするためにテコとして活用することで「許容可能な損失の原則」を補完する形で機能します。

レモネードを生み出すための4つのステップ
酸っぱいレモンを手にしたときに、捨てたり見落とさずに別の可能性を考えることが重要です。

レモンを新たな行動のための資源として活用する4つのステップ

  1. 予期せぬ事態に気づく
  2. 同じ現実に対する見方を変える(リフレーミング)
  3. 予期せぬ事態をきっかけに「手持ちの手段を(資源)」を拡張する
  4. 拡張した手段(資源)を活用して新たな何かを発想する

飛行機のパイロット(pilot-in-the-plane)の原則

コーゼーションのアプローチでは、「不確実な未来のなかで、予測可能なものは何か」に焦点を合わせます。
そして、「予測できる範囲においては、未来をコントロールできる」ことを前提に、不確実な未来を何とか予測しようと努力することで望ましい結果を得ようと考えます。

一方、エフェクチュエーションのアプローチでは、「予測できない未来のなかで、コントロール可能なものは何か」に焦点を合わせます。
そして、「コントロールできる範囲において、予測は不要である」ことを前提に、自分たちがコントロール可能な要素に働きかけることを通じて、未来の環境の一部を創造する行動に集中し、望ましい結果に帰結させようと努力します。

「飛行機のパイロットの原則」では、偶発性にどのように対処するのかといった意思決定はパイロットである自分自身がコントロールしようとする主体性に関連します。
たとえば、「誰がパートナーになり誰がそうならないのか」「自発的なパートナーとともに新たな取り組みに着手すること」等は常に自分自身の主体的なコントロールの結果です。
そうした意思決定には「私は誰か」というアイデンティティが強く反映されると考えられます。

エフェクチュエーションがとりわけ有効に機能する問題空間の3つの特徴
ここでは、どのような問題に対してパイロット(エフェクチュエーション)の役割がとりわけ重要になるかを明確化しておきたいと思います。
パイロットでなければ対処できない状況下において、コーゼーションエフェクチュエーションを比較し、エフェクチュエーションが有利となる理由を説明します。

  1. 未来の結果に関する確率計算が不可能である「ナイトの不確実性(Knightian uncertainty)」
    発生確率を数量的に表現することができず予測に頼れない状況をいいます。

    こうした状況で、コーゼーションでは困難で、エフェクチュエーションが有利となる理由は、上述の「ナイトの不確実性(Knightian Uncertainty)」の説明のとおりです。
     
  2. 選好が所与ではない、もしくは秩序だっていない「目的の曖昧性(Goal uncertainty)」
    秩序だった目的に基づいた首尾一貫した選択を行うことが困難な状態をいいます。

    ✕ コーゼーション
    目的達成のために最適な手段を追求することが困難。

    ○ エフェクチュエーション
    コントロール可能な要素から着手して、世界や他者との相互作用を通じて目的自体を形成してく。
     
  3. どの環境要素に注目すべきか、あるいは無視すべきかが不明瞭である「環境の等方性(Isotropy)」
    さまざまな要素のどこに注目し、どこを無視すべきかについて、判断できないといった事態をいいます。

    ✕ コーゼーション
    環境から集めた情報に適応する形で最適なアプローチを選択しようとする発想では困難。

    ○ エフェクチュエーション
    自らの行動を通じて実効性を高めていくエフェクチュエーションが有効。

コーゼーションとエフェクチュエーションの使い分け

コーゼーション的推論とエフェクチュエーション的推論は、常に逆作用するわけではありません。
むしろ両者は補完的に機能します。
コーゼーションエフェクチュエーションの両方を理解したうえで、意図的に切り替える能力が重要です。

2つの見方が可能にする異なるアプローチ
コーゼーションエフェクチュエーションも同じ現実に対して適用可能な、2つの異なるアプローチです。
サラスバシーは、自身が得意な料理の例を用いてこれを説明しています。

コーゼーションのアプローチ:重要な主賓をもてなすための大規模なパーティで供される料理

  1. 最初に料理を食べる人の好みを考えてメニューを決める
  2. 一番美味しいレシピを考えて必要な材料を調達する
  3. 料理をする

エフェクチュエーションのアプローチ:主婦の方が家族に作る料理

  1. 家の冷蔵庫を開けて、どんな材料があるかを確認してみる
  2. 家にある材料を使って、必要があれば追加の買い物をする
  3. 自分の得意な美味しいものを料理する

この2つのアプローチは、どちらも結果として食べた人が満足できる状態を生み出すことができます。
ただし、出来上がる料理はまったく異なるものになる可能性があります。
コーゼーションのアプローチでは、大規模パーティで供されるにふさわしいものが出来上がるでしょう。
一方で、エフェクチュエーションのアプローチでは、食べる人が期待もしなかった種類の美味しい料理、斬新な創作料理が生み出される可能性があります。

どちらが優れた方法であるかではなく、対処すべき問題によって、両者を使い分けることが重要です。

しかし一方で、経験を積むにつれて、起業家はエフェクチュエーションに熟達し、好んで利用することが増えるでしょう。
不確実な挑戦において、熟練のパイロットのように自分で操縦桿を握り、環境の変化に目を離さず対処し続けることが重要です。
これにより、不測の事態が発生しても、コントロールを保持し、望ましい結果に導くことができるようになります。

読んだ感想

本書は、私にとって新しい視点を与えてくれるもので非常にためになりました。
エフェクチュエーションを構成する5つの原則は、1つずつ単独で見てもとても重要です。
不確実性が高い世の中では、何をするためにも役立つ思考法だと思います。
起業家でなくとも、これから必須スキルとなるものだと感じました。

不確実性をもたらす存在は、たとえば、ChatGPTの登場により急激に認知された生成AIがあります。
AIは、人間に多くの恩恵を与えると同時に人間からは仕事を奪うと言われています。
先日、米国企業がAIの活用を理由に従業員の解雇に動いているというニュースが話題となり、X(旧Twitter)で「AI失業」という言葉がトレンド入りしていました。
AIの進化のスピードも方向性も一般人である私には予測することができません。
多くの研鑽によって培ったスキルを持っていたとしても、AIに取って代わられる日が明日にもやってくるかもしれません。
これが現実に起こると「自分の仕事は絶対に大丈夫」と信じていた人にとっては、紛れもなく酸っぱいレモンとなるでしょう。
私たちは、AIをレモンとして遠ざけるのではなく、AIを使って「レモネード」を作る方向に視野を広げていく必要があります。
幸いなことにChatGPT等、無料で使うことができる生成AIがあるので「手中の鳥」として望めばすぐに使うことができます。
使い方がわからなければ、「許容可能な損失」の範囲でAIの使い方がわかる書籍を購入したり、誰かにお願いして教えてもらうことが可能です。
とりあえずAIを使っているとアイデアが閃き、そのアイデアに人が集まってくるかもしれません。
そうなれば、一緒におもしろい「クレイジーキルト」を作ってくれるパートナーを見つけることも夢ではないでしょう。
そうなるためには、「パイロット」として自らコントロール可能なものを見極めながら、時にエフェクチュエーション、時にコーゼーションと切り替えながら行動することが重要であると解釈しました。

ただし、「AIに仕事を奪われるかもしれない」ということは、第一の壺、第二の壺に例えられるところの「リスク」に過ぎないとも言えます。
第三の壺のような「真の不確実性」となるものは、きっと意識の外側から不意に訪れるものなのでしょう。
「真の不確実性」に対してエフェクチュエーションを実践する自信は、いまの自分にはありません。
それでも、本書を読む前と比べれば、本書を読んだ後の現在の方が「真の不確実性」に対して上手く振る舞えるようになっていることは確実です。
本書を読んだことによって、エフェクチュエーションの存在が「手中の鳥」になったと言えるでしょう。
読書は、手っ取り早く「手持ちの資源」を増やしてくれる非常に優秀な手段であることを再確認できました。

まだエフェクチュエーションの理解としては不十分ですが、読書で「手持ちの資源」を増やしつつ、ざっくり次の感じで何かに取り組みたいと考えています。

  1. 手持ちの資源を評価して何ができるかを考えよう!
  2. 失敗しても問題ない範囲で始めよう!
  3. 手伝ってくれる人を集めよう!
  4. ネガティブなことも視点を変えてポジティブに考えよう!
  5. 何かを得るごとに、このプロセスを繰り返そう!

結果が不確実であっても、むしろ不確実であるからこそ、行動を起こすことが重要です。
本書では、不確実な世の中を生きる私たちにとって重要な必須スキルを学ぶことができます。
まだエフェクチュエーションについて学んだことが無い人は、本書を手にするところから行動を始めてみてはいかがでしょうか。

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