イントロダクション
タイトル | : | Z世代化する社会 お客様になっていく若者たち |
発行日 | : | 2024年4月30日 電子版発行日 Ver.1.0 |
発行所 | : | 東洋経済新報社 |
著者 | : | 舟津 昌平 |
著者情報は、上記リンクからご確認ください。 |
「近頃の若者は…」というような言葉は、「Z世代」に限らず言われ続けている言葉ですよね。
古代エジプトの遺跡の壁画にも「近頃の若者は…」と書かれてたと聞いたことがあります。
(本書によれば、これはウソらしいです)
Z世代といえば、SNSを使いこなし、ネットリテラシーが高いということを聞いたことがあります。
しかし、私が接するZ世代の人たちからは、ネットリテラシーの高さは感じません。
SNSの利用は高いのかもしれませんが、ネットリテラシーはむしろ低い気がします。
もちろん、職場のおじいちゃんたちに比べれば、ずっと高いです。
本書のタイトルを見て、こう思いました。
そもそもZ世代のことを全然知らない。
Z世代は、次の時代の主役たちです。
そんなZ世代について、知っておくことは良いことです。
そう思い、本書を手にすることにしました。
オススメしたい人
- Z世代を知りたいZ世代以外の人
- 社会がZ世代をどのように見ているか知りたい人
- Z世代を通して今の社会構造を知りたい人
- Z世代をターゲットにしたビジネスについて知りたい人
学べること
若者を見れば、私たちが生きる「今」の社会の構造が見えてきます。
Z世代は、1990年後半から2015年頃までに生まれた人たち。
次の社会の主役となる世代です。
本書では、Z世代のリアルを知り、社会がZ世代に求める役割を知ることができます。
それらは、現代社会への理解を深め、世代に関わらず協働する道を探ることに役立ちます。
ここでは、本書の内容について私の解釈で簡単にまとめています。
Z世代のリアル
ここでは、Z世代のリアルについて説明します。
不安を感じる若者たち
若者にとってのホームグラウンドといえば、「SNS」と「大学(学校)」。
そして、この2つにとって重要となるのが「友達」の存在です。
若者にとって、孤独は恐怖であり、友達に依存します。
そのため、「友活」は重要であり慎重に行われます。
「友活」とは、大学新入生の友達作り活動のことをいいます。
複雑化する友活
- Twitter(現X)でアカウントを作り、プロフィールに「#春から○○大」をつける
- 1でつながった人とインスタのアカウントを交換する(インスタお迎え)
- 仲良くなった同士でLINEのアカウントを交換する(LINE交換は慎重)
この手順を踏む理由は、1で友達候補のスクリーニングを行い、2で投稿を監視し友達になるかの二次審査を行うためです。
二次審査で合格すれば、晴れて3のLINE交換となります。
もし、二次審査で「ハズレ」と判断された相手は「ブロ解」されます。
「ブロ解」とは、ブロックしてからフォローを解除することをいいます。
インスタの仕様で、「ブロ解」するとフォローを外したことが相手に通知されません。
友達ができないことは恐怖なので、友達候補はたくさん作ります。
しかし、イケてない友達ができてしまうことは、なにより怖いのです。
なんとかして自分はイケてる側に存在していないといけません。
これが、若者のコミュニケーションスタイルです。
若者は、友達に依存して生きている
また、本書では、若手が直面している職場環境の実態を検証する調査を紹介しています。
リクルートワークス研究所で実施の「大手企業の新入社員が直面する職場環境を科学する」で紹介されている調査だと思われます。
この調査によれば、若手社員の労働環境は多面的に改善傾向にあります。
しかし、不安感や疲れは増大しています。
不安に根拠は必要ないのです。
親友に裏切られたらどうしよう。
陰で笑われていたらどうしよう。
自分だけ流行りに遅れていたらどうしよう。
若者は、さまざまな不安を抱いて生きています。
若者たちは、不安を感じている
コスパ志向・タイパ志向
Z世代は、コスパ・タイパを重視します。
コスパとは、コストパフォーマンスの略であり、タイパとは、タイムパフォーマンスの略です。
たとえば、タイパのために映画を倍速再生して視聴するような行動を取ります。
コスパを気にするため、無駄な努力を嫌います。
しかし、実態はコストを惜しんでいるだけということが往々にして起きます。
結果、たいしたパフォーマンスを発揮することができません。
大事なのは、パフォーマンスです。
しかし、いかにコストを減らすかということに主眼を置きがちです。
コスパを重視する。実態は大事な「パ」より「コス」を減らすことに主眼を置きがち
「平均ちょっと上」志向
最近の若者を説明する概念には、次の2つの要素があります。
- ありのままでいたい(個性の重視、素の自分、無理につくらない)
- 何者かになりたい(自己実現、成長、他者に誇れる)
また、若者には、どこまでも上を目指す「最大化」より、ほどよく得できる「最適」を目指すという傾向があります。
つまり、「平均ちょっと上」を慎重に目指します。
例
「社長になるのは大変そうだから、自分は部長止まりでいいや」
若者が思う「平均」の捉え方が狂っているのも現代の特徴です。
若者は「ふつうでいい」と言います。
しかし、それは今の日本で得られる最上級の待遇ということがわかっていません。
平均が何を根拠にしたものなのかを、立ち止まって考える必要があります。
「最大化」よりコスパ良く「最適」を目指す
社会がZ世代に求める役割
「この世のものは、社会が作り上げている」とする立場を社会構成主義といいます。
消費の主役・Z世代
経営コンサルティングファームである「識学」が提供する「識学総研」では、Z世代について解説しています。
Z世代とは何歳から?年齢や由来、X・Y世代との違いをわかりやすく解説
本書では、この解説の中の「多くの企業がマーケティングの対象としてZ世代に注目しています」という文言に着目します。
現代の若者、Z世代は「消費」に代表される
社会構成主義的に作られる「若者らしさ」
「若者らしさ」は、社会構成主義的に作られます。
TikTokを運営するTikTok for Businessの「Z世代白書2023」には、次の文言があります。
TikTokはなぜZ世代に受け入れられる?
このように、TikTokは自らをZ世代に受け入れられているとしています。
そして、そんなZ世代の特徴を次のようにあげています。
- 好奇心旺盛
- 成長意欲が高い
- 世界を広げようとしている
そういう若者も、たしかにいるでしょう。
しかし、これはZ世代全体の特徴なのでしょうか?
新成人を対象にした調査の中に「SNS普及率」という調査があります。
2023年時点のTikTokの普及率は、48.2%と半分にも満たない結果です。
TikTokが多くの指示を得ていることはわかります。
しかし、利用者が半分未満では「若者代表」とはなりません。
大谷翔平さんや藤井聡太さんがスゴイからといって、同世代みんなもスゴイとはならないのと同じです。
TikTokの例のように、起業等はZ世代に「キラキラした若者」といった概念を社会構成します。
その理由は何なのでしょうか?
社会構成主義的に作られる「若者らしさ」は、真実か?
Z世代と「推し活」
「推し活」は、現代の若者を象徴する概念です。
推し活とは、アイドルをはじめとする崇拝対象である「推し」のために行う活動です。
推しに会う遠征やグッズ購入など、極限までお金と時間を費やすことが推しへの愛の証となります。
著名なシンクタンクが発表した「データでみる日本人の幸福なライフスタイル ワークライフバランス、推し活、空気感が幸福度を高める」というレポートがあります。
その内容からは「推し活が日本人を幸せにしている」と解釈することができます。
このレポートでは、推し活を次のように定義しています。
休日や自由な時間に、できるだけ多くの時間・労力・お金をかけている趣味や活動
上位にランキングした推し活は、次の内容です。
1位 旅行
2位 ゲーム
3位 読書
旅行、ゲーム、読書は、推し活に含まれるものでしょうか?
推し活と言うには違和感がありますね。
このレポートが、旅行、ゲーム、読書を推し活と呼ぶのは何故でしょうか?
著者は「推し活で幸福になれる」という言説を作りたいという目的が先にあるのではと推論します。
推しはいつも輝いています。
推しを推すときは、自分は幸福になれます。
そのために巨額を投じることの正当性を強化したいのです。
推し活は、ビジネスになる
Z世代と「インフルエンサー」
インフルエンサーは、若者の支持を集めています。
インフルエンサーとは、世間に対して大きな影響力を持つ人のことです。
インフルエンサーは、SNSを主な舞台としビジネスのために活動しています。
Z世代にとって、アイドルだけでなくインフルエンサーも推しの対象となります。
インフルエンサーは、フォロワー数や再生数を稼いで広告収入を得ているし、直接的にグッズなど商品を販売することもあります。
すべてのインフルエンサーは、モノを売るために存在している
インフルエンサーがモノを売りたければ、「みんな買ってるよ」と言えばいいのです。
「みんな」が誰なのかを説明する必要はありません。
ファンにとって、推しが言うのだから、それは「みんな」なのです。
その商品を買って解決される課題も、ニーズも必要ありません。
インフルエンサーは、多くの人に知ってもらい、有名にならなければなりません。
しかし、有名になるとアンチがつきやすくなります。
たとえ、自分の非常識な行動を非難する声であっても自分を攻撃してくる人は、すべてアンチ。
アンチが殴り掛かってきたら、そのアンチにはアンチで対抗しなければなりません。
これをアンチ‐アンチといいます。
アンチ‐アンチすると、ファンは応援してくれて、仲間内の結束が高まります。
アンチ‐アンチは、うまく使えばビジネスに非常に有効です。
若者は、そんなインフルエンサーやYoutuberからたくさんの学びを得ます。
インフルエンサーやYoutuberから倫理観も教わります。
そのため、Z世代は自分を傷つける人全員をアンチだと思います。
大事な推しがするように、しっかりとアンチ‐アンチしなければならないと考えます。
例
職場で叱ってくる上司はアンチ
アンチ‐アンチで断固として拒絶する
しかし、世界を推しとアンチに分断するのはあまりに安直です。
インフルエンサーが行うアンチ‐アンチは、マーケティングの手法であって、人生の指針として正しいかは別なのです。
自分を傷つける人は、全員アンチ
だから推しに倣って、しっかりアンチ‐アンチする
Z世代と「インターン、ガクチカ」
インターンに従事する動機がガクチカです。
ガクチカとは、「学生時代に力を入れたこと」の略語です。
ガクチカは、就活の面接で必ず聞かれることです。
学生は、他人に話せるガクチカを作らなければなりません。
そのため、学生はガクチカのためにインターンをやろうとします。
インターンとは、何なのでしょうか?
文部科学省・厚生労働省・経済産業省の「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」では、次のように定義しています。
学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと
現代の就活では、インターン経験は必須に近いです。
このインターンについて、本書の著者と学生のインタビューの内容によれば「インターンは無給が基本」のようです。
ちなみに上記の文部科学省などの定義によれば、インターンが無給で当然といったことはありません。
このようにお金を払う側になるだけではなく、Z世代はお金をもらわず労働力になることもあります。
Z世代は、お金だけではなく、労働力としても注目されている
また、若者は「非倫理的ビジネス」と「不安ビジネス」にも利用されます。
Z世代と「非倫理的ビジネス」
世の中には、悪徳商法などと言われる悪いビジネスがあります。
それを本書では、「非倫理的ビジネス」と総称します。
本書で紹介される「非倫理的ビジネス」は、犯罪や非行です。
大学生は、時間を持て余し、社会経験が乏しく、倫理観が欠如しています。
非倫理的ビジネスの駒として使うには、うってつけです。
非倫理的ビジネスの誘いには、トモダチのネットワークも利用されます。
若者が非倫理的ビジネスに走る理由は、「お金目当て」や「友達がやってた」がありますが、「やりがい」も報道では挙げられています。
「モバイルプランナー」などの友達商法にもトモダチのネットワークが利用されます。
トモダチのネットワークは、外からは見えない閉じられたネットワークです。
そのため、若者の流行りは、大人からは視えなくなっています。
友達商法にハマるかは、友達を売れるか、売れないかが分かれ道。
非倫理的ビジネス等の流行は、大人からは見えない、閉じたネットワークが使われる
Z世代と「不安ビジネス」
不安には、根拠は必要ありません。
消臭・芳香剤が売れる理由と同じです。
実際にクサいかどうかは関係ありません。
消費者に「クサいかもしれない」という不安を抱かせれば商品が売れます。
不安を想起させることができれば、ビジネスとしては「勝ち」なのです。
就活にも不安ビジネスが関わっています。
就活仲介サービスの企業の人は、大学生に次のように言います。
「皆さん、友達が内定持っているのに、自分が持っていなかったら嫌ですよね」
「皆さん、大企業に行きたいですよね。中小企業じゃ嫌ですよね」
不安を煽り、できるだけ早く、1年生から就活を始めさせようとする企業が存在します。
学生は、友達に弱い。
友達と違うことを嫌うので、友達がやるならやります。
また、「平均ちょっと上」志向があるため、友達を出し抜くらいの企業から内定を欲しいと思います。
学生ひとり釣りあげたら、芋づる式に他の学生たちも釣れそうですね。
企業は、不安を煽ってビジネスチャンスを得ることに躊躇がない
Z世代化する社会
Z世代は、社会から「消費の主役」、つまりモノを売りつける対象として注目されています。
その結果、巨大資本はZ世代を魅了します。
そして、若者が持つ「不安」や「成長」さえもビジネスに利用します。
つまり、現代社会が若者をZ世代に仕立て上げたと言えます。
現代社会とは、いわば「Z世代化する社会」(タイトル回収)
Z世代は、決して地球外から来たエイリアンではありません。
若者が異様に見えるとすれば、それは現代社会が異様だからです。
若者は、ただ純粋に社会構造を写し取り、いち早く言動に移しただけなのです。
同じ社会で生きるZ世代以外も多かれ少なかれその影響を受けています。
若者は、時代の最先端を走るアーリーアダプター(最初期に適応する人)なのです。
若者を観察すれば、社会構造を鮮明に見ることができます。
私たちは、生まれた時代で距離を取るのではなく同じ社会構造に在ることを認識する必要があります。
私たちが協働する鍵は、その中で「どう生きるか」を一緒に考えていくことなのではないでしょうか。
生まれた時代が違っても、私たちは同じ社会の中で生きる者として協働することができる
読んだ感想
本書でZ世代について知り、Z世代に対して不思議に感じていたことの理由を知ることができた気持ちになりました。
先日、喫煙禁止エリアで喫煙していた大学生が、警備員に注意されてブチ切れていたという話を聞きました。
注意されたことに対して思うところはあったのでしょう。
しかし、キレていいと思えた理由はわかりません。
そう思っていましたが、本書の内容を当てはめれば、その大学生にとっては注意してきた警備員はアンチ。
その大学生は、しっかりアンチ‐アンチしただけなのかもしれません。
その大学生にとっては「推しと同じことをした」などの正当性があるのかもしれませんが、理解し合えない深い溝を感じてしまいます。
そんな共感できそうもない面がある一方で、本書には「それってZ世代に限ったこと?」と思う内容もありました。
社会に対して不安を感じることは、Z世代に限った話ではないと思います。
この日本社会で不安を感じながら生活している人は、世代に関わらず多いのではないでしょうか。
そう考えると、すべては「人による」ということに気がつきます。
本書を読んで、最終的に思ったことは『人と付き合うときは「○○世代」ということは考えず、その人自身を見ることが大事』ということです。
よく考えれば、Z世代でなくても謎理論でブチ切れるおじさんもたくさんいますからね。
いつの時代でも、若者を食い物にしようとする悪い大人は世にのさばっているものです。
「○○世代」と呼んでカテゴライズするのは、そういった大人たちなのではないでしょうか。
逆に若者が消費のターゲットにならなかった時代など存在するのでしょうか。
本書の「若者を見れば今の社会構造が見える」という点は非常に興味深いと思います。
社会が若者にどんな内容のレッテルを貼るかは、大々的に発表されるので知ることは容易いです。
そこから企業がどんなビジネスを社会に仕掛けようとしているのかを推測しようとするのも面白いかもしれないと思いました。
Z世代の人は、本書から社会から自分たちがどのように見られているかを知ることができます。
それは、前の世代の人たちとのコミュニケーションのツールとして役立つと思います。
Z世代以外の人にとっては、本書はZ世代を知ることを通して自分自身を見つめる機会になると思います。
Z世代と自分の違いだけでなく、自分と同じところはないかを考えてみて欲しいです。
自分が若者だった頃を振り返ってみましょう。
今と昔も、若者の本質だけ見れば、そう変わらないことに気がつくかもしれません。