イントロダクション
タイトル | : | あっという間に人は死ぬから 「時間を食べつくすモンスター」の正体と倒し方 |
発行日 | : | 2024年7月19日 発行 |
発行所 | : | KADOKAWA |
著者 | : | 佐藤 舞(サトマイ) |
著者情報は、上記リンクからご確認ください。 |
人は必ず死ぬ。
年齢を重ねていくにつれて人生の終わりを薄っすらと感じてきます。
本書のタイトルを見て、思いました。
このまま過ごしていると、人生の終わりは本当にあっという間に来そうだな。
私たちの大切な限りある時間を食べつくすモンスターとは何なのでしょうか?
そのモンスターの倒し方がわかれば、人生はどう変わるのでしょうか?
その答えを知りたい!
そう思い、本書を手にすることにしました。
オススメしたい人
- 流れていく時間に漠然とした焦りや不安を感じている人
- 自分の本当に大切なもののために人生を費やしたいと思う人
- 死を覚悟した時に自分の本心に気づき後悔したくない人
学べること
「テスト勉強をしようと意気込んでみたものの、気づいたらデスクの掃除をしていた」という経験はないでしょうか?
あー、わかります。あるあるですよね!
「勉強に集中するために環境を整えるのが大事」と自分を欺き何時間も掃除に費やす。
心理的な抵抗から逃げるために理屈をこじつけて、実際には目標達成から遠ざかってしまう。
これと同じことが、人生そのものに対しても起きています。
!?
本書では、時間だけが過ぎる人生から脱却する方法を学ぶことができます。
時間の使い方に関するハウツー本は、紀元前から今日に至るまで山のように出版され続けています。
しかし、タスクに対して優先順位のつけ方が上手くなったり、速く効率よくこなせるようになっても時間に対する漠然とした焦りや不安が無くなることはありません。
つまり、重要なのは時間の使い方ではないのです。
私たちは、自分にとっての次の2つのことについて知らなければなりません。
ここでは、本書の内容について私の解釈で簡単にまとめています。
この記事の最後の「読んだ感想」では、本書の内容を「鬼滅の刃」で例えてより理解を深める試みを行っております。
人生の3つの理
なぜ、人は時間を浪費してしまうのでしょうか?
それは、「人生の3つの理」に向き合うことができないからです。
人生の3つの理?
「人生の3つの理」とは、次の3つです。
人生の3つの理
人は必ず死にます。
人の命は1つの身体に宿り、最後は1人で死ななければなりません。
生まれてからの体験のすべては、自分1人のものであり、人は全員平等に孤独です。
自由に生き方を決めることはできますが、人生の責任は自分で負わなければなりません。
たしかに、どれも目を背けたくなるものばかりです。
死・孤独・責任から来る漠然とした不安は、ストレスを生じさせます。
だから人は、死の不安を紛らわすために何かに没頭し、孤独の不安を紛らわすために友人やパートナーを求め、責任の不安を紛らわすために他人に決めてもらおうとします。
心理学では、ストレスに対する意図的な対処を「コーピング」といいます。
人は、日頃からコーピングを繰り返すことでストレスを回避しています。
私たちは、「人生の3つの理」から生じる不安を紛らわせることに多くの時間を費やしています。
そして、コーピングには中長期的に人生の質を悪化させるものもあるのです。
例えば、次のようにです。
私は、起業に向けて準備中です。
ビジネス書やセミナーで勉強をしています。
えっと・・・こちらの方は?
その方は、万年起業準備中のセミナージプシーです。
……。
彼は、このように考えています。
「自分にはまだまだ情報やスキルや人脈が足りていない」
「だから、まだ起業できない」
これは、一見筋が通っているように見えます。
しかし、実は自分自身にウソをつき、本命ではなく代替の行動で満足したフリをしているのです。
自分の行動を無理に正当化したり、自分自身にウソをつく行為を「自己欺瞞」といいます。
この自己欺瞞の沼から抜け出さなければ、なんとなく時間が過ぎ、あっという間に死んでしまいます。
死ぬ瞬間の5つの後悔
数多くの患者を看取った緩和ケアの介護人、ブロニー・ウェアさんの『死ぬ瞬間の5つの後悔』には、死を覚悟した患者に共通する後悔は、次の5つと記されています。
- 自分に正直な人生を生きればよかった
- 働きすぎなければよかった
- 思い切って自分の気持ちを伝えればよかった
- 友人と連絡を取り続ければよかった
- 幸せをあきらめなければよかった
これは、「人生の3つの理」から目を背けて自分にウソをつき続けた結果です。
死を覚悟した時に自分の本心に気づき、大きく後悔するのです。
「自分は同じ後悔をしない」と言い切れないのが怖いですね。
「人生の3つの理」から逃れると幸福感から遠ざかる
神戸大学の研究チームが行った研究により、所得、学歴、健康、人間関係、自己決定が幸福感に与える影響を分析した結果、健康・人間関係に次ぎ、「自己決定」が強い影響を与えることが分かりました。
所得、学歴よりも自己決定の方が大事なんですね。
自己決定とは、進学先や就職先などの進路を自分で決めたかどうかの度合いです。
他にも自分の人生を自分でコントロールできる感覚が、幸福感や満足度に影響を与えているとする研究は数多くあります。
有意義な時間を過ごすためには、自分の人生の舵を自分で握りコントロールしなければなりません。
人生の向き合い方と苦痛への処方箋:3つの原則
人生の向き合い方と苦痛への対処法は、歴史上の智慧人によって膨大な論考と研究が行われてきました。
時代によって少しずつ変わりますが、次のとおり大きく3つの共通点があります。
3つの原則
自分で変えられないことで悩み続けることは、後悔する時間の使い方です。
自分でコントロールできるものとできないものを区別する必要があります。
それでは、自分で変えられることとは、何でしょうか?
自分でコントロールできるものは、「認知」と「行動」です。
そして、コントロールが難しいのは、「感情」と「身体反応」です。
そして、認知・行動・感情・身体反応は、それぞれ相互に影響し合います。
例えば、次のようにです。
- 温泉に入る(行動)
▼ - 身体がポカポカする(身体反応)
▼ - 心地いい気持ちになる(感情)
▼ - 前向きなことを考えやすくなる(認知)
私たちがコントロールできるものは、「認知」と「行動」だということを覚えてください。
自分の価値観を明確にする
本書で扱う「価値観」は、アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT: Acceptance and Commitment Therapy)という認知行動療法に基づく概念です。
ACTにおける価値観の概念は、日常で使われる価値観とは異なります。
ACTにおける価値観
ACTにおける価値観は、人生のコンパスのようなものです。
自分にとって重要な価値観がなければ、自分の人生をどこに向かって走らせればいいかわかりません。
まずは、ACTの価値観の定義を明確にします。
ACTにおける価値観の定義
自分の価値観とは、どのようにして見つければいいのでしょうか。
価値観を明確にするワーク
ACTでは、価値観を明確にするワークが用意されています。
本書でおすすめしている方法は、次の2つです。
価値観を明確にするワーク
- 困難な体験を振り返るワーク
- 子どもの頃を振り返るワーク
困難な体験を振り返るワークからは、後天的な価値観がわかります。
過去に起きた困難な体験により、それを乗り越えるための洞察や教訓を得たことでしょう。
それらを基に自分自身の価値観を明確化することができます。
子どもの頃を振り返るワークからは、先天的な価値観がわかります。
子どもの頃の価値観は、単純に自分が楽しいと思うかが重要な行動規範です。
子どもの頃に褒められたことや夢中になっていたこと、困難に挑戦したことなどから、あなたがもともと持っている気質がわかります。
本書に掲載のワークをすることで、あなたの価値観が明確になるはずです。
本書の著者の回答も掲載されているので、とても参考になります。
価値観に合った目標を設定する
ここまで、「人生の3つの理(死・孤独・責任)」と、「価値観」について説明しました。
人は、「人生の3つの理」を避けるために自己欺瞞を起こしています。
そのため、価値観に沿った正しい選択ができません。
結果、代替の行動により時間を浪費し長期的な人生の質を悪化させてしまいます。
目標設定では、価値観に沿った正しい選択をするために次のことが大事になります。
目指す方向を見失わないように、柔軟に軌道修正する
以下の目標設定の方法は、本書の著者が開発したものです。
目標設定理論やモチベーション研究をベースにしたもので次の3段階に分けて行います。
- 目的(価値観)
- 目標(中間ゴール)
- 手段(到達するまでの経路)
3段階にしていることにより、修正したり諦めることが上手になります。
たしかに、3つに分かれていることで、それぞれを切り離して考えやすいですね。
「なんとなくこんな感じかな?」と軌道修正することを前提に目標設定してOKです。
目的(価値観)
目的とは、自分自身の価値観です。
本当はどうありたいか、何を大切に生きるかを設定しましょう。
複数ある優先度は、状況に応じて見直し柔軟に自由に入れ替えることができます。
目標(中間ゴール)
目的(価値観)に沿って行動した結果、達成されることを設定しましょう。
1つの目標に執着しないでください。
目標を変えることは全く悪いことではありません。
1つの目標がダメだと感じたら、上位の目的に沿った目標を立て直しましょう。
手段(到達するまでの経路)
目標達成のために実践可能な日々の習慣的かつ具体的な行動を設定しましょう。
目標を達成するための手段は複数あるべきです。
また、やることだけでなく、やらないことを設定することも大切です。
これを最低でも週に1回、定期的に見直し、目的・目標・手段をブラッシュアップしていきましょう。
これを繰り返していくと自分の成長を感じることもできます。
この目標設定のワークも本書の著者の例を参考にできます。
目標設定の仕方はもちろん、修正していく過程も知ることができます。
読んだ感想
本書は、次の4つのステップで考察を深めて解決策に導く構成となっています。
- 問題提起
- 原因特定
- 損失回避(問題を解決しないとどうなるか)
- 解決策
様々な研究データなどから解決策に迫っていく過程も学びが多くて面白く読むことができました。
中でも、誰でも1万時間努力すれば達人になれるという「1万時間の法則」は、実は再現実験に失敗しているということには驚きました。
残念なお知らせでしたが、「そりゃ、そうだよな」という納得の理由も知ることができました。
研究実験などの学問的な話ばかりではなく、マンガで例える内容もあり堅苦しさもないので読みやすくもありました。
例えば、「自己決定」が大事だという話がありました。
鬼滅の刃で、主人公の竈門炭治郎が富岡義勇に禰豆子を「どうか妹を殺さないでください……」とお願いするシーン。
炭治郎は、義勇に「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」と叱咤されます。
ここで義勇が激しく叱咤しなければ、そして炭治郎が義勇に立ち向かってみせなければ、禰豆子は斬られて鬼滅の刃の物語ははじまっていなかったですよね。
うん。自己決定…大事過ぎる。
本書の内容に倣い鬼滅の刃で例えるなら、この物語に登場する鬼たちは「人生の3つの理」である死や責任から逃れた結果だと思います。
鬼になった後は、人生において大切な価値観を捨て、本命の行動を諦めなければなりません。
日の光を避けて人を殺し喰って生きるしかなく、それは代替の行動であり、すべて自己欺瞞です。
人間の人生には限りがあり、幸いにも鬼のように空しく生き続けることはありません。
しかし、価値観に沿った正しい選択ができなければ、やはり人生は鬼のように空しいのでしょう。
本書で学んだ価値観にあった目標設定は、死の瞬間に後悔しないために不可欠なことだと思います。
しかし、本書の目標設定の実践は、かなり難しい印象を受けました。
- 1つの目標がダメな場合、もう1つの目標に上手にシフトできるのか?
- 新しい目標を設定したくても自分が取れる選択肢がなくて、上位の目的をずらしたくならないか?
- そして、目標をずらすことで、自分の価値観から外れて自己欺瞞に陥るのではないか?
これも鬼滅の刃で例えて、私なりに考えてみました。
始まりの呼吸の剣士たちの時代、鬼殺隊の剣士たちが継国縁壱の使う最強の「日の呼吸」をどうしても使えないとわかったとき、どうしたのでしょうか?
絶望はなかったのでしょうか?
そこで諦めずに「自分に合った呼吸法を探す」という目標を設定するまで、どんな困難があったのでしょうか?
結果的に、鬼殺隊の剣士たちは水、炎、風、雷、岩などの派生の呼吸を生み出すことができました。
それができたのは、揺るがない目的があったからだと思います。
つまり、揺るがない目的とは自分の価値観です。
この場合の価値観は、「人を守る」ということになるでしょうか。
雷の呼吸の剣士・我妻善逸の例からも同様のことが言えます。
善逸は、技の基本となる壱ノ型 霹靂一閃しか使えません。
そのため、兄弟子からは罵られます。
普通ならそこで諦めて自己欺瞞の日々を送ることになってもおかしくはなかったはずです。
それでも善逸は鬼殺隊の剣士を辞めず、弐ノ型から陸ノ型までを諦めて基本の壱ノ型を極めて昇華させていく道を選びます。
それができたのは、特別な思いがあったから。
これらの例えからわかることは、ブレない価値観の重要性です。
自分の価値観を見誤れば、揺るがない目的には成り得ません。
自分の価値観を明確にするワークをしっかりやる必要があります。
また、この2つの例は、本書の「自分に合ったことを見極める」という内容に通じます。
成功者の特徴の1つは、「自分に合ったことをしている」ということです。
人間にはそれぞれ個性があるため、それに合わせた戦略が必要です。
これは、自分に合った価値観(目的)に繋がる目標や手段を選ぶ際にも役立つことだと思います。
自分の価値観を明確にするためには、本書のすべての内容をよく理解した上で行うことが必要です。
自分にウソをついた人生を歩むことで人生の終わりの瞬間に後悔したくなければ、本書を手にするという手段は良い選択だと思います。
本書に書かれていることは、抽象的な表現を使ったごまかしではなく具体的な内容ばかりです。
読み終わった後、多くの人が「読んで良かった」と感じられる本だと思います。