イントロダクション
タイトル | : | 片田舎のおっさん、剣聖になる~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件 |
発行所 | : | 秋田書店 |
著者 | : | 乍藤和樹, 佐賀崎しげる, 鍋島テツヒロ |
著者情報は、上記リンクからご確認ください。 |
ストーリー
物語は、男が道場破りと対峙するシーンから始まる。
男の弟子たちが物影から勝負の行末を見守っている。
これは、その弟子たちの中の1人の少女の瞳に映る光景である。
先に動いたのは道場破り。
道場破りが振るう剣が轟音と共に男を襲う。
しかし、次の瞬間、気を失って倒れたのは道場破りの方だった。
少女の目には自分の師の太刀筋を捉えることはできなかった。
男は幼い頃から剣に触れ、いずれは騎士や冒険者になることを目標にしていた。
「剣で多くの人々を救いたい」
そう考えて絶えず鍛錬を続けてきた。
ーーそして、中年となったいま、男は田舎の片隅で道場を営んでいる。
男には護身程度の剣を教える実力しか身につかなかったからだ。
「まぁ、こんなものだろう」
「身の丈に合っている」
男はそう思い日々を過ごしていた。
男の道場を発った1人の弟子は、王国最強の騎士団へ入団する。
その弟子は入団直後から数々の功績を打ち立て、史上最年少で団長にも任命される。
その後、弟子はとうとう指南役の打診を受けるまでに至る。
指南役は騎士たちの指導、育成を担う。
王国最強の騎士団の指南役は王国一の剣士も同然。
弟子は、この時を待っていた。
「私以上に適任がいます」
少女が騎士を志したのは、師に相応しい舞台を用意するためだった。
読んだ感想
私は漫画でしか本作を読んでおらず、原作小説は読んでいません。
ここでは、この記事を書いている時点での最新巻である5巻まで読んだ感想を書いています。
原作小説が、どれくらい漫画の先を進んでいるかも把握していません。
そのため、原作小説を読んでいる方からすると「そうじゃないよ」と思うところがあるかもしれませんがご容赦ください。
それでは、感想を書いていきます。
この物語は、おっさんの成り上がりファンタジーです。
例えば、田舎で育った世間知らずの少年が剣聖に憧れて厳しい修行をし、後に王都に行って無双するストーリであれば使い古されたコンテンツです。
これを主人公を少年からおっさんに変えることで少し「ずらす」。
類似品がたくさんありそうな題材に、この「ずらし」を加えることで読者に新しさを感じさせるという、考えられた作品だと感じます。
やっていることは、「またオレ何かやっちゃいました?」なんですが、主人公がおっさんなだけで違った見方ができます。
年齢を重ねた主人公であり、剣の修行を怠らず、また、これまで様々な経験を積んできたでしょう。
そのため、主人公の強さに「ただ生まれ持った才能です」や「チート能力です」といった説明ではなく、ある程度の説得力を持たせることに成功しているように感じます。
この「おっさん主人公」の名前は、ベリル。
凄腕の剣士ですが、弟子等の限られた人間しかそのことを知りません。
そして、そのことを主人公本人すらも知りません。
自分の強さの自覚がなく、田舎に引きこもっていました。
そんな暮らしの中、弟子の1人に田舎から強引に引っ張り出されることで物語は動き出します。
ベリルは、王国最強のレベリオ騎士団の特別指南役として招かれることになります。
「なんで俺が?」
そう思いますが、国王命令のため拒否することができません。
ベリルが自分の力を見誤っていることには理由があります。
これが、少年の主人公であれば「ただの世間知らず」で幼いことを理由に終わらせることができますが、主人公が大人ということで、そういうわけにもいきません。
これにも説得力を持たせる理由が用意されています。
その理由は、主人公の幼い頃からの剣の師である父が強すぎたということです。
手も足も出せずに負け続ける日々がベリルから自信を奪ってしまったのでしょう。
そして、その父が腰を悪くして引退するまで一度も勝つことができなかったことで「自分はこの程度」と錯覚してしまったのです。
この主人公の父が強い理由もいずれ語られるのではないでしょうか。
また、たまに来る道場破りが「自分からわざわざ出向いて行って、あっさり負けて帰ってきた」なんて話を自ら広めるとは考えられないためベリルの強さが世間に知られることが無かったのだと思います。
次にベリルの内面についてです。
これまで述べてきたように、ベリルは「凄腕の剣士」「自己評価が低い」という要素を持ったキャラクターです。
それ以外の部分はどうかというと「優しい普通のおっさん」です。
弟子からは、尊敬する師匠であることはもちろんですが、恋愛対象だったり父親のように思われていたりと様々ですが、みんなが好印象を抱いています。
それは、昔から知っている弟子だけがそうなのではなく、新たに出会っていく人々とも性別を問わず良い関係を築いていきます。
その理由は、周囲から尊敬される「剣の実力」もあるでしょう。
しかし、実力があっても嫌な奴というのは存在するので、それだけで周囲から好かれるわけがありません。
ベリルの好感を持てるところは「誰に対しても細かい気遣いができること」「謙虚であること」だと思います。
そして、一番は「汗だくで剣の稽古に夢中になる姿」に見られる年齢を問わず若者に交じって「好きなことを楽しめること」だと感じています。
ベリルは、周囲の鍛え上げられた騎士たちに比べれば体力の衰えが見られる描写があります。
たしかに強者ですが、年齢的なハンデもしっかり作中で描かれています。
ただ主人公が化け物じみた強さを披露するだけの作品とは違い、ここにも説得力があって読者に嘘くささを感じさせない工夫がされていると思います。
主人公のベリルというキャラクターについてばかり書いていますが、脇を固めるキャラクターたちも特徴がしっかり描かれていると思います。
ここでは、ネタバレを避けるため他のキャラクターについては言及しません。
この作品から学べることは、次のことだと思います。
- 年齢に関係なく好きなことに向き合って良いこと
- 年齢に関わらず周囲への気遣いが大切なこと
- 積み重ねた努力と経験は裏切らないこと
- 頑張っていれば誰かが見ていてくれること
- 何歳になっても新しい道を歩んで良いこと
今後のストーリーの展開ももちろん楽しみですが、新しい道を歩み始めたおっさんの成長や変化にも注目したいと思います。
漫画から学べることも多くあります。
普段、漫画を読まないという方も『片田舎のおっさん、剣聖になる~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件』を読んでみてはいかがでしょうか。
原作小説もあります。