【要約】「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策

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コミュニケーション・人間関係

イントロダクション

タイトル「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策
発行日2024年5月13日 第1版第1刷発行
発行所日経BP
著者今井 むつみ
著者情報は、上記リンクからご確認ください。

「何回説明しても伝わらない」。
これ、ありますよね。
そういう相手の場合、自分も相手の言っていることがわからないという反対のこともあり得ます。
プライベートならそもそも関わりません。
しかし、仕事ならまったく関わらないというわけにはいきません。
みなさん、そんな人、いませんか?

単純に「あの人とは合わない」で片づけていました。
でも、この本を読めば理由がわかる?

理由がわからない「合わない」は対策しようがありません。
しかし、理由がわかる「合わない」なら対策が可能かもしれません。

そう思い、本書を手にすることにしました。

オススメしたい人

  • 「うまく伝わらない」という悩みを持っている人
  • コミュニケーションの達人になりたい人
  • コミュニケーションを通してビジネスの熟達者になりたい人

学べること

本書のタイトルにある「何回説明しても伝わらない」は、何故起こるのでしょうか。
その理由は、私たちが日頃「コミュニケーション」と呼んでいるものが、様々な認知の力によって支えられているからです。

本書を読めば、認知科学的知見から「話せばわかる」がいかに難しいことであるかを知ることができます。
その理由を知り、コミュニケーションの本質を理解することが「何回説明しても伝わらない」の解決のための第一歩となります。

ここでは、本書の内容の一部について、私の解釈で簡単にまとめています。

「話せばわかる」とはどういうことか?

そもそも「話せばわかる」とは、どういうことをいうのでしょうか。
そして、何をもって「わかった」となるのでしょうか。
それは、相手の頭の中のことが自分の頭の中にあるものとイコールで結ばれることです。
しかし、それは大変難しいことなのです。

「知識や思考の枠組み(=スキーマ)」

学びや経験、育ってきた環境、興味関心は人それぞれ違います。
これらの要素は、私たちが何かを考える際にバックヤードで働く基本的なシステムを形成します。
このシステムのことを認知心理学では「知識や思考の枠組み(=スキーマ)」と呼んでいます。
言葉を発する人と受け取る人とでは、「スキーマ」が異なります。
この「スキーマ」の違いこそが「言っても伝わらない」を引き起こすのです。

どういうことかをわかりやすく説明しましょう。
たった1つの名詞「ネコ」と聞いたとき、あなたはどんなネコをイメージするでしょうか?
同じ「ネコ」という言葉を聞いたのに人によって無意識に頭に思い浮かべるネコは別のものになります。
「Aのネコ」のようなイメージをする人もいます。
「Bのネコ」のようなイメージをする人もいるかもしれません。
「Cのネコ」のようなイメージをする人もいることでしょう。

Aのネコ
Bのネコ
Cのネコ

ネコにもいろいろあります。
たとえ、あなたが「それネコじゃないよ」と思っても、それは誰かにとってのネコなのです。

このような現象は、人によってスキーマが異なることにより生じます。
そのため、脳内で描かれるイメージを言葉で明確に共有することはできないのです。
たとえ、相手が「わかった!」と言っても、それは「その人のスキーマ」を通してのものです。
そのため、相手の「わかった!」を鵜呑みにしてはいけません。

  1. 私たちの思考には、独自の「枠組み(スキーマ)」がある。
  2. 「わかった」という感覚は正しいとは限らない。

認知バイアス

スキーマによる偏見や先入観、一方的な思い込みを生み出す認知の傾向を「認知バイアス」といいます。
この「認知バイアス」が「言っても伝わらない」を生み出します。
ここでは、「認知バイアス」の中の「信念バイアス」について取り上げて説明します。

信念バイアス

都会から地方に移住したAさんの話を例に「信念バイアス」について説明していきます。

Aさんは、移住した先で都会の効率的な考え方をもって地域の課題解決のために新しいアイデアを提案しました。
そのアイデアは、客観的に見て、地域が抱える課題に対して十分な改善効果を見込めるものでした。
しかし、地元民から「よそ者のくせに生意気だ」と反発を招いてしまいました。
「話せばわかる」と信じていたAさんは、地元民に何回も説明をしました。
しかし、Aさんが地元民の理解を得られることはありませんでした。
地域に馴染めなかったAさんは転居することになりました。

なぜ地元民は、Aさんのアイデアを採用しなかったのでしょうか。
地元民は、Aさんの提案を受け入れた結果を考えて「賛成・反対」を示したわけではないのです。
地元民は、自分が持つ「神聖な価値観」によって決めたのです。
地元民にとっての「神聖な価値観」とは、「長年守ってきた生活スタイル」です。
「変わりたくない」という思いが、Aさんの提案を否定するという決定に導いたのです。

このように、人々は自分が持つ「神聖な価値観」によって物事を決定します。
それから、その決定を正当化するための理由を後づけで持ってくることが多いのです。

人は、自らの「神聖な価値観」による決定に自信を持ちます。
しかし、決定に至った理由を論理的に説明することができないことが多いです。
「神聖な価値観」は、結論を出すうえで厄介な因果分析をする手間を省くことができる「物事を単純化するためのツール」の役割をします。

先ほどから何度も出てくる「神聖な価値観」とは、いったい何なのでしょうか。
簡単に言ってしまえば「好き・嫌い」です。

  1. 人は、「神聖な価値観」によって物事を決定し、後から理由を後づけする。
  2. 「神聖な価値観」は、「物事を単純化するためのツール」である。

対して、Aさんはどうでしょうか?
Aさんもまた「神聖な価値観」によって「こうすべきだ」という決定を地元民に押しつけていた可能性があります。
Aさんが「相手の立場」で考え、地域の生活スタイルを尊重し、少しずつ良い変化を提案していくことができれば違う結果になっていたかもしれません。
「相手の立場に立つ」「相手の気持ちになって考える」というのは、認知心理学が重視している「心の理論」、「メタ認知」と深く関係しています。

Aさんは効率化を重視することが正しく、地元民は長年の慣習を守ることが正しいと考えました。
こういった問題の難しいところは、どちらも「自分が正しい」と思ってしまうことです。
残念ながら「神聖な価値観」による物事の単純化を、私たちは日常生活の中で、頻繁に、無自覚に行っています。
話し手側にも聞き手側にもこうした「神聖な価値観」があれば「話せばわかる」は夢のまた夢なのがおわかりいただけたと思います。
これが「信念バイアス」と呼ばれるものです。

「信念」と「信念バイアス」との違い

信念は、「自分が『こうしよう』というもの」です。
信念バイアスは、「自分が『こうしよう』というものを、『他人にもそうさせよう』というもの」です。

「信念」と「信念バイアス」の違いを知ると、「信念を他者に押しつけてはいけない」と思うかもしれません。
しかし、この「信念を他者に押しつけてはいけない」という信念が極端になることにも注意しなければなりません。
自分の信念について、個人で守るべき範疇なのか、社会や世界が平和であるための規範なのかを振り返って考えてみることが大事です。

「相手にわかってもらえる」を実現する方法を考えよう

コミュニケーションの過程では、「勘違いをした」「忘れてしまった」「聞いていなかった」「間違えた」「見逃していた」などの失敗が起こり得ます。

私たちは、誰もが何かしらの「認知バイアス」を持っています。
この事実に気づくためには、「メタ認知」を磨く必要があります。
メタ認知とは、平易にいうと「自分自身の意思決定を客観視すること」です。

人は何かを選ぶとき、「これが好き」「これが嫌い」という感情で意思決定をしています。
それから、その選択でいいかどうかを理性で検証し「論理的な理由」を後づけしています。

この感情による意思決定を「ファスト思考」、別名「システム1」思考と呼びます。
それから時間をかけて熟考する知的思考を「スロー思考」、別名「システム2」と呼びます。
「システム1」思考による意思決定を「システム2」思考によってチェックすること。
これを「メタ認知を働かせる」といいます。

  1. システム1:不正確だけどすばやく効率がいい思考
  2. システム2:メタ認知を働かせて時間をかけて熟考する思考

「信念」が「信念バイアス」にならないためには、「メタ認知」を働かせて次のように思考することが大切です。

  1. 価値観ではなく、結論に焦点を当てる
  2. 結論からさかのぼって考えていく
  3. 自身で自分の思考を振り返る
  4. 結論に至る根拠を考える

このように思考すれば、「信念バイアス」にとらわれた一方的で強すぎる主張をせずに済むはずです。

読んだ感想

本書を通して、人と人は話しても本当の意味でわかりあえない事実を知ることができました。
そして、たとえ、そうだとしても互いに少しでもわかり合えるよう日常の努力を積み重ねていく。
それが、コミュニケーションにおいて重要であることを学ぶことができました。

この記事では、本書に掲載の「信念バイアス」についてまとめてみました。
この信念バイアスは、誰もがかかってしまった経験に心当たりがあるのではないでしょうか。
書店に行けば、たくさんの「話し方」についての本が置いてあります。
それらの本で紹介される「話し方」の技術もおそらく素晴らしいものだと思います。
しかし、信念バイアスがかかっているとき、「話し方」の技術でどうにかなるのでしょうか。
おそらく、どうにもならないと思います。
自分自身に信念バイアスがかかった状態なら、そこにいくら技術を上乗せして会話しても事態を悪化させてしまう可能性があります。
私のように人との会話が苦手な人は、おそらく小手先の技術にすがりたくなると思います。
しかし、「話し方」の技術だけではどうにもならない問題があるのです。
技術の他に何が必要なのでしょうか?
本書は、認知バイアスの存在を伝えるだけではなく、どうすればいいかも教えてくれています。
その鍵となるのが「メタ認知」。
「メタ認知」を磨き、自分の思考の過程や、出した答えを振り返る方法が書かれています。

本書では「コミュニケーションの達人」の特徴についても紹介されています。
その中の1つに「失敗を成長の糧にしている」という内容があります。
コミュニケーションの達人は、失敗から学びを得て、改善していくことでコミュニケーションの力を磨いているそうです。
ここで重要となるのが「失敗に気づき、そう認めること」です。
これにも「メタ認知」が深く関係しています。

本書には、信念バイアスだけではなく、他の複数のバイアスについても説明があります。
1つ1つの認知バイアスの内容を読んでいると、おそらく自身の経験を振り返ることになると思います。
なぜ、あのとき「伝わらない」が起きてしまったのか。
今、その謎を解くときがきたのです。
本書を読んで、「コミュニケーションの達人」に一歩近づいてみてはいかがでしょうか。