イントロダクション
タイトル | : | ありえない仕事術 正しい“正義”の使い方 |
発行日 | : | 2024年2月29日 電子書籍版発行 |
発行所 | : | 徳間書店 |
著者 | : | 上出 遼平 |
著者情報は、上記リンクからご確認ください。 |
『世に出ている「仕事術」なんて嘘ばっかりじゃないか。』という言葉に惹かれました。
私は、これまで何冊かの「仕事術」に関する本を読んできました。
しかし、それらの本で学んだ内容は「嘘」だったのでしょうか。
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それならば「本当」とは?
本書を読めば「本当」を知ることができるのでしょうか?
そう思い、本書を手にすることにしました。
オススメしたい人
- 組織に依存せず、自分の足で立ち上がる方法を知りたい人
- 仕事との向き合い方に悩む人(人生を懸けるほど重要なのか?)
- 生存権を会社から自分の手に取り戻す力が欲しい人
- 自分に興味を持ってもらいたい人
- Youtubeチャンネルを立ち上げようとしている人
学べること
世に出ている「仕事術」なんて嘘ばっかりじゃないか。
そのように表紙に書かれていることからもわかるとおり、本書はよくある「仕事術」の本とは一線を画するものとなっています。
多くの「仕事術」の本では、成功を目指すことが当たり前のように書かれています。
しかし、私たちが本当に望むことは競争の舞台に立ち続けることなのでしょうか。
成功の先にあるものは、私たちの幸福に直接結びつくのでしょうか。
本書は、「どうすれば善く生きることができるか」に主眼を置いて書かれています。
ここでは、本書の内容の一部について、私の解釈で簡単にまとめています。
著者のドキュメンタリー的思考法は、テレビ番組制作者に限らず様々な場面で役立つものです。
すべての仕事は「クリエイティビティ」を要求する
すべての仕事は「クリエイティビティ」を要求します。
そのため、「飲み」は控えましょう。
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はい。
……え?どういうことでしょうか?
その理由を順に説明していきます。
「クリエイター」という言葉を聞いて、どのような職種を思い浮かべるでしょうか?
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クリエイターというと、ゲームクリエイターなどでしょうか?
「クリエイター」という職種は、クリエイティビティを活かして新しいものを生み出すことが求められます。
たとえば、アートやデザイン、音楽、映画、文学などの分野で新しいものを生み出す役割を果たす職種です。
それでは、クリエイターの枠に入らない職業――たとえば、営業職には「クリエイティビティ」は必要ないのでしょうか?
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営業職は、商品やサービスを顧客に提案・販売する役割です。
クリエイティビティが必要というイメージはありませんね。
営業職には、一般的にコミュニケーション能力や交渉力が求められます。
しかし、「営業職はクリエイティブである必要は無い」と考えているのであれば、それは大きな間違いです。
仕事とは、社会になんらかの価値を生み出すことです。
そのため、次のことが言えます。
世の中のあらゆる職業は、クリエイティブであるべき
当然、あなたの職にもクリエイティビティが要求されます。
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なるほど。
そういう意味では、仕事をする人は、みんながクリエイターですね。
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・・・その話と「飲みを控える」ことがどうつながるのですか?
仕事仲間との飲み会は、大体の時間が愚痴を言い合ったりすることに費やされます。
しかし、その飲み会は、レクリエイション(Re-Creation)です。
つまり、「再生産」であり「創造」とは異なります。
自分が安心できる関係や環境で過ごすことは心地よいかもしれません。
しかし、それだけではチーム全体の競争力、生存確率を漸減させることになります。
クリエイティビティが求められる以上、あなたは常に新しい視点、考え方などに触れる必要があります。
どうしてもお酒を飲みたい場合は、仕事の仲間以外と飲みに行くようにしましょう。
自分と違う価値観や制度、風習の人たちとの出会いは、あなたの世界を広げてくれることでしょう。
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私はお酒を飲みません。
でも、読書から新しい知識やアイデアを吸収するようにしています。
「飲み」は控える。
たまにお酒を飲みたいときは、仕事の仲間以外と飲みに行く
「世界は私に興味を持っていない」から始めよう
上記では「世の中のあらゆる職業がクリエイティブであるべき」という話をしました。
しかし、残念ながら、あなたが創造するものに注意を向ける人など一人もいません。
そもそも、世界はあなたという人間に一切興味を持っていません。
マス・コミュニケーションにおけるコンテンツ制作は、そう認識することからスタートします。
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それなら、どうすればいいのでしょうか?
これには、マス・コミュニケーション的打開策が存在します。
入口は欲望によって開かれる
人間は、欲望によって行動を起こします。
マス・コミュニケーション的コンテンツ制作では、人間の欲望を利用します。
たとえば、「食欲」です。
食欲を刺激するコンテンツは、不動の人気ジャンルとして君臨しています。
人間には、様々な欲望があります。
魅力的なコンテンツ制作ができるか否かは、ひとえに欲望の発見にかかっていると言えるのです。
自分の欲望を大切にする
ここで重要なのは「自分の欲望を大切にする」ということです。
その理由の1つは、自分の欲望を実現するためになら頑張れるということです。
そして、さらに重要なことがあります。
それは、次のことです。
いかにニッチに思える欲望でも誰かが同じ要望を抱いている
欲望は、商売の原点です。
あなたの中に未だ世界でコンテンツ化されていない欲望はないでしょうか?
もし、あるのなら、それは大きなチャンスとなります。
自分の欲望をコンテンツ化する
欲望をストレートにコンテンツ化することは、問題となることがあります。
人間の欲望とは、ときにグロテスクなものです。
倫理的観点から難しいことがあります。
また、コンテンツに興味を持ってくれる人の範囲を自ら狭めてしまっている可能性があります。
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じゃあ、どうすればいいんですか?
欲望の本質
そんなときは、今一度自分の欲望に立ち返りましょう。
自分の欲望について、表面的にしかとらえられていないのではないでしょうか?
その欲望が湧き出る源泉が何なのかを考えてみましょう。
その欲望の本質が見えてくるかもしれません。
他の欲望で訴求力を補う
当初の欲望に対する訴求力が、コンテンツ化することで減少してしまうことがあります。
そんなときは、他の欲求で補うことができないかを考えます。
1つのコンテンツに込められる欲望は1つである必要はありません。
- グロテスクな人間の欲望を利用する
- 欲望をひっくり返して回収する
このようにすることで、自分にまったく興味を持たない人に振り向いてもらうためのコンテンツ制作が可能となります。
他者の欲望を知りたい欲望
ここでは、欲望を一般的に利用できる例を紹介します。
人間は、他人の欲望を知りたいという欲望を持っています。
テレビ番組が、何でもかんでもランキング形式にして発表するのはそのためです。
取り扱うものが、どんなことでもいいから「ナンバーワン」にできるよう工夫を凝らしています。
人は「みんなが欲しがっているものには価値がある」と思うのです。
自分の物差しを持っていない人には、特に大きな効果を発揮します。
たとえば、テレビ局が「話題の人」として売れないお笑い芸人を起用しまくるとどうなるでしょう。
「多くの人の目に触れる」⇒「誰もがこぞって起用したくなる」⇒「多くの人の目に触れる」……「有名人」のループができる!
この芸人の「有名人」としての価値が向上し、さらに「有名人」になっていきます。
このように強いプラットフォームを持っていれば「ナンバーワン」を作り出すことさえできるのです。
自分の「見せたいもの」を紹介する際のコツは次のとおりです。
- 「見せたいもの」が、そもそも人気があることを伝える
- 誠実さを欠く行為は止める(嘘はバレる)
- 「見せたいもの」の魅力を完璧に理解する
- 客観的にどう評価されているかを検討する
伝家の宝刀「Q&A」
自分にまったく興味を持たない人に振り向いてもらうための方法について説明してきました。
しかし、せっかく振り向いてもらっても、すぐに立ち去られてしまっては意味がありません。
そうならないためのテレビ的文法の初歩にして唯一の最重要作法があります。
Q&A
「Q&A」とは、視聴者に問い(Q)を投げかけ、答え(A)を求めるというものです。
多くの番組が「Q&A」の構造で作られています。
「Q&A」の構造には、次の効果があります。
- 番組は視聴者に問い(Q)を投げかける
- 視聴者は、その瞬間から無意識に様々な予想を始める
- 視聴者は、予想の正否を確認せずにはいられなくなる
- 視聴者は、答え(A)を知るために番組の最後まで画面の前に座り込む
人間は「わかる」と「わからない」では、絶対に「わかる」側にいたいと切望します。
「Q&A」は、それを利用しているのです。
番組全体を通した大きな「Q&A」の中に小さな「Q&A」をいくつもつくる「Q&A」の入れ子構造からなるものもあります。
視聴者を番組に釘付けにするために、1つの問い(Q)に対する答え(A)が出そうになれば、そのタイミングで別の問い(Q)を仕掛けるのです。
そうやって視聴者を逃がさないのです。
番組によっては、タイトルがそのまま問い(Q)の役割を果たすものもあります。
タイトルだけでは問い(Q)として不足があればサブタイトルをつけます。
今後、番組を見る際には注意して見てみてください。
ほとんどの番組が一貫して「Q&A」によって構成されていることに気づくはずです。
読んだ感想
「多くの人が知りたいと思っていないこと」、しかし「どうしても知って欲しいこと」を伝えるためにドキュメンタリー番組は作られます。
そのために知恵を絞り、技術を使い、エンターテイメントの力を必要とします。
本書の大部分は、とあるドキュメンタリー番組の制作過程を舞台としたストーリーテリングの形式が採用されています。
ここでは、このストーリーに対する感想を書いていきます。
このストーリーの感想を簡潔に述べると「怖い」です。
ストーリを読んでいくと、登場人物が明らかに狂った行動を始める描写があります。
しかし、その人物が狂っていたのは、実はそれよりももっと前であったことが終盤で指摘されます。
そうすると疑問が生まれます。
――「いつ、どこで狂いはじめたのか?」
たしかに、その「既に狂っていた」と指摘があった時点の内容は、私も読んでいて少しひっかかりがありました。
しかし、その時、私は「組織に組み込まれて働く人間にとっては、むしろ正解」と思い直しました。
「プライベートのときの自分」と「仕事のときの自分」は、考え方が違うと感じることはないでしょうか?
この狂ってしまった登場人物も「プライベートのときの自分」で考えていれば、狂ったまま突き進まず、立ち止まり正しい道に方向転換できたかもしれません。
しかし、「仕事のときの自分」は、成功を最優先にして考えてしまいます。
その先に幸福があるのかは考えません。
多少の差はあるでしょうが、これは誰にでも同じことが言えると思います。
つまり、誰もがこのストーリーの登場人物のように狂う可能性を秘めているということです。
だから「怖い」と感じたのです。
本書のサブタイトルの「正しい“正義”の使い方」とは、何だったのでしょうか?
そもそも、“正義”とは何なのでしょう?
厄介なことに、自分の立ち位置によって“正義”の形はどんなものにも変わってしまいます。
それは、このストーリーの登場人物が実践してくれています。
この登場人物も一貫して自分が考える“正義”のために懸命に行動していたように感じられます。
しかし、狂った。だから狂ったとも言えます。
このストーリーが教えてくれる教訓は、立ち位置を誤ってはいけないということだと思います。
つまり、“正義”とは、善く生きようとすること。
そして、「正しい“正義”の使い方」とは、自分であることを忘れず正しい位置に立ち続け“正義”を執行すること。
立ち位置は、「成功のため」でも「会社のため」でもダメなのです。
しかし、同時にそれが非常に困難であることも、このストーリーは教えています。
それでは、どうすればいいのか?
その唯一と思われる方法は、本書の「あとがきにかえて」の最後に示されています。
ここからは、「仕事術」をテーマとしたビジネス書としての本書に対する感想を書いていきます。
本書は、たしかに「仕事術」の本としては「ありえない」ものだと思います。
その理由は、本書の紹介ページにも記載がある「見たいもの、聞きたいことだけに囲まれて生きていきたい人にとっては全くもって不愉快な話でしょう。」の警告のとおりです。
本書に書かれている内容は、わかりやすく再現性のある成功のための仕事術ではなく「どうすれば善く生きることができるか」の方法を示すものなのです。
本書を読み終えた後、もう一度「はじめに」の内容を読むと最初に読んだときとは違った視点で意味を理解することができます。
最後に、いろいろ書きましたが、本書には確実に多くの学びが凝縮されていると思います。
ストーリーテリングの内容は、読む人によって、また、どの登場人物に着目するかで学べることが変わってくるでしょう。
ぜひ多くの人に手に取って欲しい作品です。