イントロダクション
タイトル | : | BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか? |
発行日 | : | 2024年5月15日 初版発行 2024年5月15日 電子版発行 |
発行所 | : | サンマーク出版 |
著者 | : | ベント・フリウビヤ ダン・ガードナー |
著者情報は、上記リンクからご確認ください。 |
どデカいことを何か成し遂げたヤツらとは、つまり超がつく成功者です。
そんなヤツらは、何をして世界の超成功者になれたのか?
そこには共通する秘訣がある?
それは、私にもマネできることはある?
成功するためには、成功者のマネをしろと言いますよね。
そう思い、本書を手にすることにしました。
オススメしたい人
- アイデアを損失なく便益に変えたい人
- 大型プロジェクトの成功・失敗の事例から学びを得たい人
- 個人でも大きいことを成し遂げる方法を知りたい人
- すばやく目的を達成する優れたチームをつくる方法を学びたい人
学べること
本書(原書)の題名は、「How Big Things Get Done」。
本書には、この題名からわかるとおり「大きいことをやり遂げる方法」が書かれています。
本書の著者は、メガプロジェクトの運営管理に関する研究を行っているオックスフォード大学教授。
そんな著者自身も大型プロジェクトを手掛けています。
それは、「大型プロジェクトのデータベース構築」。
このデータベースには、世界中から集められプロジェクトのデータが収録されています。
その件数は、なんと計1万6000件超。
この膨大なデータは、世界共通の「メガプロジェクトの鉄則」といえる次のことを示します。
大型プロジェクトは予算と期間をオーバーし、便益が期待を下回る確率が非常に高い
「予算、期間、便益」の3点ともクリアすることができるプロジェクトは、わずか0.5%。
この0.5%のプロジェクトと、その他99.5%のプロジェクトとでは、何が違うのでしょうか?
本書では、プロジェクトの失敗と成功をもたらす「普遍的な要因」について学ぶことができます。
ここでは、本書の内容について私の解釈で簡単にまとめています。
「大型プロジェクト」とは?
まず最初に、本書で扱う「大型プロジェクト」について次のように定義します。
当事者にとって大きく複雑で野心的でリスクが高いプロジェクト
「政府が行う鉄道用海底トンネルの建設」や「企業が行う高層ビルの建設」等を想像する人もいるかもしれません。
しかし、当事者にとって上記の定義にあてはまれば、それは「大型プロジェクト」です。
そのため、自分が思えば「一般人が生涯で行う高額な住宅リフォーム」等も大型プロジェクトと捉えることができます。
プロジェクトが暴走しても、莫大な富を持つ企業なら借入を増やして対応できるかもしれません。
政府なら債券発行や増税で対応できます。
しかし、一般人はそうはいきません。
私たちは、大企業幹部や政府高官より真剣に危険を受け止める必要があります。
一般人こそ、しっかり学ばなければなりません。
本書では「メガプロジェクト」「大型プロジェクト」と2つの表現が使われています。
しかし、この記事では、この2つの言葉は同じものとして扱い、以降では「大型プロジェクト」の表現に統一して記載します。
プロジェクトを失敗に導くモノ
プロジェクトを葬り去るブラックスワン
めったに起こらないが、起これば甚大な影響を及ぼす事象を「ブラックスワン」といいます。
それは、たとえば株価大暴落やパンデミックなどの衝撃的なものかもしれません。
しかし、プロジェクトに大打撃を与えるのは、衝撃的な出来事とは限りません。
こんな中世の「ことわざ」があります。
釘が抜かれて蹄鉄が外れ、蹄鉄が外れて馬が倒れ、馬が倒れて乗り手が死に、乗り手が死んで戦に負け、戦に負けて国が滅んだ
「釘が抜ける」ということは、ありきたりでささいなことです。
しかし、ささいな変化が組み合わさることで大惨事をもたらすことがあります。
つまり、どんな出来事もプロジェクトを揺るがし破滅に至らせる可能性を持っているのです。
大型プロジェクトの成否を分ける普遍的な要因
大型プロジェクトの成否には、次の2つの普遍的な要因が作用します。
- 人間の心理メカニズム
- 権力
どちらの影響が大きいかは、意思決定とプロジェクトの性質によって決まります。
利害関係者による「政治」が関与しない段階では、「心理メカニズム」の影響が大きいです。
しかし、「政治」が幅を利かせてくると「権力」の影響が大きくなります。
「心理メカニズム」の影響
大型プロジェクトとも、それを考案し、判断し、決定するのは人間です。
そのため、楽観主義などの「心理メカニズム」が必ず作用します。
心理メカニズムは、プロジェクトに次の影響を与えます。
- 手持ちの情報や知識が、意思決定に必要なすべてだと思い込む。
- 直観を信じ、固執し、判断をゆっくり慎重に吟味せず決定を下す。
- 人が作業にかかる時間を、経験から教訓を得ず楽観的に実際よりも少なく見積もる。
- 常にベストケースのシナリオを想定する。
- 前進している感覚を得たい欲求から計画立案を軽視してプロジェクトを始動させる。
不思議に思う人もいるかもしれません。
しかし、これらは心理メカニズム的に言えばまったく不思議ではないのです。
「権力」の影響
どんな大型プロジェクトでも、人や組織が競争し画策します。
そして、そこには必ず「権力」が絡みます。
権力は、プロジェクトに次の影響を与えます。
- 戦略的目的のためにコストや時間の見積もりを低く抑える等して情報が歪められる。
- 「サンクコスト(埋没費用)」や「対面」の問題からプロジェクトを中止できない。
- 政治的理由により目的よりも他の利益を優先する。
Aを「戦略的虚偽表明」といいます。
情報が歪められたままプロジェクトが進めば確実に予算超過と工期遅延を生みます。
その頃にはプロジェクトは後戻りできないほど進んでいます。
それこそが「戦略的虚偽表明」の狙いです。
それは、「戦略的虚偽表明」を仕掛ける張本人はBのことがわかっているからです。
結果、プロジェクトに金を出し続けるほかに方法がなくなるのです
Cは、経済的、モラル、リスクの問題を生じさせます。
「心理メカニズム」と「権力」は、必ず影響します。
大型プロジェクトがうまくいく方が珍しい理由がよくわかります。
つまり、大型プロジェクトは、「途中からうまくいかなくなる」のではなく「最初からうまくいっていない」のです。
大型プロジェクトでは、コストと工期の見積もりを超過するのが常です。
その問題は、責任者と作業員の仕事の進め方にあると考えられてしまいます。
しかし、実際は誰がやっても無理であり、問題の元凶は計画立案にあることも多いのです。
プロジェクトを成功に導く方法 「ゆっくり考え、すばやく動く」
上記で説明したとおり、多くの大型プロジェクトは、すばやく決定され始動するが、たちまち問題が噴出し進捗が遅れる。
結果的にプロジェクトは、ズルズルと長引くことになります。
本書では、この誤ったパターンを「すばやく考え、ゆっくり動く」といいます。
一方で成功するプロジェクトは、これの逆のパターンをたどります。
つまり、正しいのは「ゆっくり考え、すばやく動く」です。
「ゆっくり考え、すばやく動く」がプロジェクトを成功に導く
ここから「ゆっくり考え、すばやく動く」の詳細について説明します。
プロジェクトは、次の2つのフェーズに分かれています。
- 計画(プランニング)
- 実行(デリバリー)
「計画(プランニング)」のフェーズでは、ゆっくり考えて周到な計画と予測を立てることが重要です。
「実行(デリバリー)」のフェーズでは、周到な計画によって迅速に実行しプロジェクトを早く終わらせなければなりません。
これが、成功の鍵です。
プロジェクトの実施中にブラックスワンに遭遇すれば、プロジェクトは破滅します。
この「ゆっくり考え、すばやく動く」は、ブラックスワンへの対策にもなります。
スピードを上げてさっさと終わらせれば、ブラックスワンとの遭遇のリスクを下げることができます。
このブラックスワンへの対策を「ブラックスワン・マネジメント」と呼びます。
計画(プランニング)
「ゆっくり」とは、ただ空想するだけや延々と会議で堂々めぐりの会議をすることではありません。
よい計画を立てるためには、模索し、想像し、分析し、検証し、試行錯誤することが必要になります。
計画を立てる間に打てるだけの手を打つことは、リスクへの対策にもなります。
これには時間が非常にかかるため、結果的に「ゆっくり」になるのです。
よい計画立案のための手法について説明します。
- 目的(なぜそれをするのか)を問う
- 目的に合わせたアイデアを出す
- 目的を最後まで見失わない
目的(なぜそれをするのか)を問う
「なぜこのプロジェクトを行うのですか?」を問いましょう。
プロジェクトは、それ自体が目的ではありません。
プロジェクトとは、実現したい目的に達するための手段に過ぎないのです。
このことに目が向かなければ「手持ちの情報や知識が、意思決定に必要なすべてだと思い込む」ことになります。
目的が明確になるまで掘り下げましょう。
よい答えの前には、必ずよい問いがあると言います。
目的に合わせたアイデアを出す
目的に対して、どの手段が最適なのかをじっくり考えなければなりません。
計画立案の段階で、あれこれ試し、工夫を凝らし、何が有効なのかを見きわめます。
これを繰り返し、大きなアウトラインから細かいディテールに至るまで精査、検証します。
これを経て、信頼性の高い計画となるのです。
これが良い計画立案と悪い計画立案の基本的な違いです。
悪い計画立案では、問題や課題、不明点が先送りされています。
目的を最後まで見失わない
プロジェクトを始めたら、最初から最後まで目的を見失ってはいけません。
それが、成功するプロジェクトの基本です。
信頼性の高い見積もり方法
プロジェクトを失敗に導くモノに「常にベストケースのシナリオを想定する」というものがあります。
しかし、起こり得るトラブルをすべて特定し想定に加えることは不可能です。
では、どうすればいいのでしょうか?
過去に行われた「同じようなこと」を参照し、コストの平均値を求めましょう。
それから自分のプロジェクト用に内容を調整します。
独自性バイアスから自分のプロジェクトを特別と思い、いろいろ調整したくなるかもしれません。
しかし、調整を行うのは、その必要性を裏づけるデータがあるときだけにしましょう。
この方法を使ってもコスト超過が発生するリスクはあります。
このリスクを軽減するためには、10%から15%の予備費を確保しておけばよいでしょう。
- 過去に行われた「同じようなプロジェクト」を参照する
- 10%から15%の予備費を確保しておく
スモールシング戦略
「スモールシング戦略」とは、小さいものを積み上げて巨大にする戦略です。
小さいものとは、あなたが欲しいものの基本の構成要素です。
欲しいものが出来上がるまで、この基本の構成要素を組み合わせていきます。
この「小さいもので大きいものをつくる」のアイデアを「モジュール性」といいます。
好例は、ウェディングケーキです。
豪華に見えるウェディングケーキですが、平たい普通のケーキの積み重ねでできています。
もし、ウェディングケーキを「1つの大きいもの」としてつくるとすれば大変なことです。
そして「1つの大きいもの」は、不測の事態に翻弄されるリスクが高くなります。
ウェディングケーキを「1つの大きいもの」としてつくる場合、焼くための大型のオーブンを用意したり、準備だけでも難しそうです。
仮に準備できたとしても、焼くときになって、その特注の大型オーブンが壊れたら?
リカバリの利かない不測の事態がいくつも想像できますね。
「スモールシング戦略」には、次の利点があります。
- 分割により作業効率等を向上する
- 反復は経験を生む
- スケールを自由自在に変えらえる
- どんなものにも使える
- 個人にも可能性を開く
分割により作業効率等を向上する
ウェディングケーキは「多くの小さいもの」としてつくられます。
専門のケーキショップでケーキを量産し、モジュールとして会場に搬入します。
そうすれば会場で組み立てることができます。
この手法は、作業の効率とペースを向上することができます。
反復は経験を生む
ケーキを1つ焼けば、それは経験になります。
反復することは、急速な経験を積み高度なスキルを身につけることができます。
そのことにより、質やパフォーマンスを改善することができます。
スケールを自由自在に変えらえる
ウェディングケーキは、積み重ねるケーキの数で大きさを変えることができます。
このように「モジュール性」は、モジュールの数の増減でスケールを自由に変えることができます。
どんなものにも使える
「スモールシング戦略」は、想像力が許す限り、どんなものにも使うことができます。
「プロジェクトの小さいケーキ(基本の構成要素)は何か?」
すべてのプロジェクトリーダーは、この問いに答えなければなりません。
個人にも可能性を開く
小さいものをすばやくスケールアップできることができます。
個人でも小さい実験を通して大きいことを成せる可能性を持っています。
実行(デリバリー)
どんなに優れた計画があっても、それだけでは目的を実現させることはできません。
実行という重要なフェーズを成功させなくてはなりません。
そのためには、一丸となってすばやく動くチームが必要です。
工期内にすばやく完了させるために一丸となって動くチームが必要
ここでは、よいチームをつくるためにはどうすればいいかについて説明します。
優れたチームづくりには、次のことが必要です。
- 利害衝突をなくす
- 経験と実績を重視する
- 必要なものを、ただちに支給する
- 心理的安全性
- チーム作りにはコストをかける
利害衝突をなくす
よい結果を促すポジティブなインセンティブだけを与えます。
利害が一致すれば協力的になります。
経験と実績を重視する
チームづくりには、お金よりも経験と実績を重視させます。
予算超過と工期遅延からの評判の失墜を防ぐことができるのなら安いものです。
必要なものを、ただちに支給する
必要なものが全部そろっていれば、思いっきり働くことができます。
些細な不足であっても人数分、日数分積み重なれば影響は大きくなります。
心理的安全性
自分のありのままの考えや気持ちを気兼ねなく言える状態を「心理的安全性」といいます。
心理的安全性は士気を高め、改善を促します。
また、悪い報告もすばやく伝わるようになり問題の対処に役立ちます。
チーム作りにはコストをかける
成功には、お金、時間、労力などの代償が伴います。
もし、チームのパフォーマンスが振るわなければ、コスト超過は大きいものになるでしょう。
チームづくりに費やすコストは有意義な投資と言えます。
読んだ感想
本書には、どデカい事例ばかり掲載されています。
そのため、政府の高官や大企業の幹部以外には縁遠い話に思えてしまうかもしれません。
事例はたしかに大型プロジェクトが多いのですが、本書から得られる学びの1つ1つをきちんと知れば、勉強やダイエットなど、私たちの身近なものにも応用が利くものばかりであることに気がつきます。
むしろ、使えないものを探す方が難しいのではないかとさえ思えてきます。
本書のどデカいことを成し遂げたヤツらは、どデカいことを成し遂げたいときだけ、このように考えていたのでしょうか?
おそらく本書で紹介される思考や行動を普段からしていたと想像できます。
そうではないとするなら、大型プロジェクトに携わったときにだけ、いきなり成功する発想が可能になったというのは不自然な話です。
つまり、私たちも本書で学んだ思考や行動を普段から行い馴染んでおけば、いつか大きなチャンスが巡ってきたときに成功を成し遂げることができるということです。
そう考えると、私たちの普段の時間はいつかやってくる人生の大型プロジェクトに向けての準備期間。
つまり、計画立案のフェーズと考えることもできるのではないでしょうか。
計画立案が終われば、次に来るのは実行フェーズです。
実行フェーズになったら、すばやく動けるように、いまはじっくり準備しましょう。
「すばやく考え、ゆっくり動く」は失敗します。
成功のためには「ゆっくり考え、すばやく動く」が正解です。
気をつけなければいけないことは、「ゆっくり」することそれ自体がよいわけではないということ。
長年夢を温めながら、ただ空想するだけではダメなのです。
あなたが成功するための優れた計画立案は、本書を手に取り、じっくり読み込むことから始まる、のかもしれません。